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2010年10月 6日 (水)

「推定無罪の原則」はどこへ行った?

小沢一郎民主党元幹事長に対し、検察審査会が2度目の「起訴相当」の議決をした。
これにより、小沢氏は強制的に起訴されることになる。
議決書を目にすることができた。
構成は以下のようになっている。

議決の要旨
議決
の趣旨
別紙犯罪事実につき、起訴すべきである。
議決の理由
第1 被疑事実の要旨
第2 検察官の再度の不起訴処分
第3 検察審査会の判断
 1 再捜査について
 2 B供述の信用性
 3 C供述の信用性
 4 被疑者供述の信用性
 5 状況証拠
 6 まとめ

形式的には整っている構成と言えるだろう。
その論理を朝日新聞の要約により示す。
http://www.asahi.com/national/update/1004/TKY201010040184.html

議決書はまず、小沢氏の関与を示す直接的な証拠として、「収支報告書を提出する前に、小沢氏に報告・相談した」とする小沢氏の元秘書で衆院議員・石川知裕被告(37)=同法違反罪で起訴=の捜査段階の供述調書の信用性を検討。「石川議員は小沢氏を尊敬し、師と仰いでおり、小沢氏を罪に陥れる虚偽の供述をするとは考えがたい」と指摘し、1度目の議決後の再捜査でも同じ供述を維持していることから、「信用性は認められる」とした。小沢氏の関与を捜査段階で認めたが、再捜査で否定に転じた別の元秘書についても、捜査段階の供述は信用できると判断した。
一方、小沢氏の供述については、土地購入資金となった4億円の出所に関する当初の説明も、変更後の説明も「著しく不合理で信用できない」とし、「出所を明らかにしないことが、虚偽記載をした動機を示している」という見方を示した。そのうえで議決書は、陸山会が土地購入と前後して、小沢氏名義で銀行から4億円の融資を受けていた点に言及。「小沢氏は土地購入資金の4億円を自己の手持ち資金だと供述しており、年間約450万円の金利負担を負ってまで4億円を借り入れる必要は全くない」と疑問視。土地購入原資の4億円を収支報告書に記載せずに隠しておくための偽装工作だったとみた。融資申込書に小沢氏自身が署名、押印している事実も重視し、「当然、虚偽記載についても了承していたと認められる」と結論づけた。

議決書の作成を補助した審査補助員として、「弁護士 吉田繁實」という名前が記載されている。
ちなみに、検察審査会法は、「審査補助員」につき、以下のように定めている。
http://www.houko.com/00/01/S23/147.HTM#s9

第39条の2 検察審査会は、審査を行うに当たり、法律に関する専門的な知見を補う必要があると認めるときは、弁護士の中から事件ごとに審査補助員を委嘱することができる。
2 審査補助員の数は、1人とする。
3 審査補助員は、検察審査会議において、検察審査会長の指揮監督を受けて、法律に関する学識経験に基づき、次に掲げる職務を行う。
1.当該事件に関係する法令及びその解釈を説明すること。
2.当該事件の事実上及び法律上の問題点を整理し、並びに当該問題点に関する証拠を整理すること。
3.当該事件の審査に関して法的見地から必要な助言を行うこと。
4 検察審査会は、前項の職務を行つた審査補助員に第40条の規定による議決書の作成を補助させることができる。
5 審査補助員は、その職務を行うに当たつては、検察審査会が公訴権の実行に関し民意を反映させてその適正を図るため置かれたものであることを踏まえ、その自主的な判断を妨げるような言動をしてはならない

審査補助員は建前上はあくまで補助であって、検察審査会の自主的な判断を妨げてはならないとされているが、実態はどうであろうか。

私にも素人なりに素朴な疑問がある。
それは、議決の年月日:平成22年9月14日と議決書作成年月日:平成22年10月4日の時間差である。
この程度のボリュームのものに20日も要するであろうか。
議決の理由の部分を読んでも、とりたてて論理の精緻化に時間を費やしたとも思えない。
むしろ、A、B、Cの供述の信用性について、あっさり信用性を認め、被疑者の供述については信用できないとする根拠は明確ではない。
特に、Cの供述について、再捜査段階で完全に翻っていることを認めているにもかかわらず、である。
特捜部の捜査が批判にさらされている折に、市民目線なるものからしても疑問である。
神戸学院大学大学院実務法学研究科教授上脇博之(日本国憲法)という人のブログに次のようにあった。http://blog.livedoor.jp/nihonkokukenpou/

結局、会計責任者ら3人が小沢氏を「尊敬し、師として仰いで」いるとして小沢氏が「当然に不記載・虚偽記載についても了承していた」と推認し「共謀」を認定しているにすぎないのである。
乱暴な結論である。

同感である。
「何人も有罪と宣告されるまでは無罪と推定される」という「推定無罪の原則」は、近代法の基本原則である。
検察審査会が「起訴相当」の議決をおこなうにあたっても、有罪の証明が積極的に推認されることが必要だと考える。
マスコミ等では、「起訴相当」だけで議員辞職を促す論調がみられる。
検察庁が威信をかけて強制捜査をした上での不起訴である。
果たして、有罪を認められるであろうか。
有罪の結論が得られなかった場合には、審査会制度そのものが疑われかねないだろう。

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コメント

検察審査会が、裁判員制度と違って、一般人つまり素人だけの構成であることが問題かもしれません。一般人は、どうしてもマスコミなどの影響を受けてしまうからです。マスコミ等では、「起訴相当」だけで議員辞職を促す論調がみられます。野党や反小沢グループの政治家が言うのは、それが彼らの仕事ですから仕方がありませんが、マスコミがその発言を面白おかしく取り上げ、一般人がそれらに影響されてしまうのも事実です。
一般人だけの構成でもう一つ問題なのは、特捜の取調べの強引さを実感できないことです。
<「石川議員は小沢氏を尊敬し、師と仰いでおり、小沢氏を罪に陥れる虚偽の供述をするとは考えがたい」と指摘し、1度目の議決後の再捜査でも同じ供述を維持していることから、「信用性は認められる」とした。>
実際に特捜の取調べを受けた方の手記などでも、「10cm前の壁に向かって何時間も立たされる」といった、現代風の拷問の詳細が綴られていますが、そんな状況で「楽になれよ、公判で否定すればいいのだから」と囁かれ、作文された調書にサインをしてしまうらしいのです。現に、大阪地検特捜問題で逮捕された検察官が可視化を要求しています。彼らが可視化を要求せざるを得ないというのは、検察の取調べが可視化しなければならないような代物であることを彼ら自身が暴露している訳でしょう。
いずれにせよ、乱暴な結論であることに間違いはありません。
有罪の結論が得られなかった場合にせよ、有罪の結論が得られたにせよ、審査会制度そのものを見直さなければいけないと思います。

投稿: リロン | 2010年10月 7日 (木) 10時12分

リロン様

コメント有り難うございます。
仰るとおりだと思います。
小沢氏云々ということではなく、「灰色だから、裁判の場で黒白を明確にすればいい。そのために、とりあえず起訴をしよう。それが国民の責任だ」という検察審査会の姿勢は全く疑問に思います。
しかも、審査申立人も検察審査会のメンバーも匿名、審議の内容は守秘義務の対象ということであれば、すべて「藪の中」ということになります。
実際に起訴されれれば、大きな不利益を被ります。
結果的に黒白がはっきりすればいい、という問題ではないと思います。
検察審査会も必要があって誕生したのでしょうが、実態は大きな問題を含んでいると言わざるを得ないでしょう。

投稿: 管理人 | 2010年10月 9日 (土) 05時36分

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