大阪市2幼児放置致死事件の衝撃
胸が痛くなるような幼児虐待のニュースが後を絶たない。
わが子を洗濯機にかけて回したり、木箱に入れて監禁したりというような信じられないことが報道されているが、大阪の2人の幼児が、放置されたまま死にいたったと見られる事件は衝撃的であった。
3歳と1歳の2人の子供が、母親によって外に出られないように粘着テープで目張りまでした部屋に放置され、餓死した。
この母親も、出産当初は子供を可愛がっていたようである。
しかし、いつか、わが子が飢え死にするであろうことを予測しつつ、遊び歩くほうを選択していた。
大阪府警は、不作為の殺人にあたると判断し、殺人容疑で再逮捕したと報じられている。
餓死にいたる間、子供の心には、どのようなことが去来したのだろうか?
私の想像を超えている。
母親は、これから後悔の念に苛まれるだろうが、失われた命はもう戻ることはない。
逮捕された母親は、「死んでいるかもしれないと思った」と供述しているという。
育児放棄(ネグレクト)などということではなく、やはり殺人というしかないであろう。
衝撃度が大きいので特殊な事件と思い勝ちであるが、背景事情は普遍的かもしれない。
それは、母親が、孤独であったことだ。
周りに相談相手もいなかったのであろう。
虐待の対象は、幼児ばかりではない。
都立高校の1年の女子生徒が、4月に実母による虐待を疑われる事例があった。
学校は児童相談所へ通告していず、生徒はその後も虐待を受けたが、7月に児童相談所の介入により保護されたという。
学校も、結局他人事である。
校長は、「子どもと違って、高校生なのだから……」と言っているが、恐怖の本質を理解していないと言わざるを得ない。
大人だって、恐ろしさゆえに表に出せないでいるケースはいくらでもあると思う。
プライバシーとか個人情報保護とかいわれる。
確かに情報化の進展により、興味本位で他人の私生活を覗き見するような事例もある。
しかし、実母による虐待というのは、それ以前の、緊急避難的な対応を要する問題ではなかろうか。
児童虐待防止法が制定されたのが2000年。
爾来10年が経過した。
虐待は減少傾向にあるか?
少なくとも、図(大久保真紀「児童虐待防止法制定後の虐待の現状」(『月刊福祉1009』全国社会福祉協議会所収))にみるように、児童相談所の対応件数は増加する一方である。
「相談件数=虐待件数」とはいえないが、ニュースで報じられる虐待事件が、氷山の一角であることは間違いない。
児童虐待でよく耳にするのは、「しつけのつもりだった」という親の言い訳である。
しかし、区別がつかないのは当人くらいのもので、常識に照らせば差異は明瞭である。
2008年4月の法改正で、児童相談所は、最終的に強制的に住居に立ち入る臨検・捜査ができることになった。
しかし、実際には手続きが煩雑であったり、親との摩擦を避けたい配慮が働いたりして、臨検は遅れがちであるようである。
本来可愛いはずの子供をどうして虐待してしまうのか?
育児疲れや一人親家庭、継父母の場合、経済苦や夫婦不和など、さまざまなケースがあると想像される。
親のストレス、いらだちなどが、家庭内における最も弱い存在である子供に向かうのだろう。
「子ども手当」のあり方が議論になっている。
子供の虐待を根絶することは難しいかも知れない。
しかし、少なくとも虐待件数(相談件数で代理してもいい)を減少に転じさせることの方が優先課題ではないか。
一方で痛ましい虐待が報じられるなかで、子供は社会で育てるものだといって「子ども手当」を支給するのには、何となく釈然としないものを覚える。
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コメント
事件の影響で問題があるとみられる件での通報が増えるのは間違いないでしょうね。これはこれで良いことだと思います。
ただ、自分の子供の頃には食事の好き嫌いなどの理由で家に入れてもらえないようなしつけの話は珍しくありませんでしたが、このご時勢にそういったことをすると通報されてしまうかも知れませんね・・・。
投稿: yukikaze_type2 | 2010年8月12日 (木) 14時19分
yukikaze_type2様
コメント有り難うございます。
確かに、第三者にはしつけと虐待の区別は、つけにくいかも知れませんね。あるいは、当人の主観においても。
私も家の外に締め出されたことがあるし、子供を締め出したこともあります。
しかし、やはり虐待の疑いがあると思われる場合には、通報すべきでしょうね。
投稿: 管理人 | 2010年8月19日 (木) 02時56分