天皇の戦争責任について
政府主催の全国戦没者追悼式が、16日、日本武道館で行われた。
天皇、皇后両陛下や菅首相のほか、戦没者遺族や政府関係者ら計6000人が参列した。
先の戦争では、300万人を超える人が亡くなった。
私の身近な友人にも、父親が戦死した人がいる。
私たちの世代にとっては、戦没者はそう遠い存在ではない。
あと20年くらい早く生まれていたら、私自身が特攻死していた可能性も小さくないだろう。
そういうことを考えると、戦没者を心から鎮魂したい気持ちになる。
式典に臨席した天皇陛下は、次のようなお言葉を述べられた。
http://sankei.jp.msn.com/culture/imperial/100815/imp1008151315002-n1.htm
本日、「戦没者を追悼し平和を祈念する日」に当たり、全国戦没者追悼式に臨み、さきの大戦において、かけがえのない命を失った数多くの人々とその遺族を思い、深い悲しみを新たにいたします。
終戦以来既に六十五年、国民のたゆみない努力により、今日の我が国の平和と繁栄が築き上げられましたが、苦難に満ちた往時をしのぶとき、感慨は今なお尽きることがありません。
ここに歴史を顧み、戦争の惨禍が再び繰り返されないことを切に願い、全国民と共に、戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し、心から追悼の意を表し、世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります。
まことに終戦以来65年、今日のわが国は、敗戦などなかったかのように、繁栄している(ように見える)。
例えば、平均寿命と1人当たりGDPをみれば以下の通りである。
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1620.html
長生きは、幸福の1つの指標と考えていいだろう。
わが国は、紛れもない幸福大国である。
そして、上図に見るように、平均寿命は、1人当たりGDPとほぼ相関している。
端的にいえば、豊かな国ほど長生きできる、ということである。
つまり、繁栄が幸福をもたらしたのだ。
天皇陛下のお言葉の通り、国民のたゆみない努力を賞賛すべきだろう。
それでは、かつての戦争は、すべて清算されてしまったと考えていいのだろうか。
敗戦時に1歳だった私は、戦争と無関係だったとしてしまっていいのだろうか。
式典における菅首相の式辞をみてみよう。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20100815-OYT1T00809.htm
……
先の大戦では、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対し、多大の損害と苦痛を与えました。深く反省するとともに、犠牲となられた方々とそのご遺族に対し、謹んで哀悼の意を表します。
戦後、私達国民一人一人が努力し、また、各国・各地域との友好関係に支えられ、幾多の困難を乗り越えながら、平和国家としての途を進んできました。これからも、過去を謙虚に振り返り、悲惨な戦争の教訓を語り継いでいかなければなりません。
……
日本人として、他国に与えた損害と苦痛をどう考えるか。
今の繁栄している(かのような)日本は、戦争を遂行した大日本帝国とは別の存在と考えていいのだろうか。
一部の戦争指導者だけの責任に帰していいのだろうか。
責任を有する戦争指導者とは、A級戦犯のことか。
彼らを合祀している靖国神社には、参拝すべきか否か。
これらの問題を考えていくと、どうしても、天皇の戦争責任をどう考えるか、という問いに行き着く。
65年という歳月は、天皇の戦争責任という問題を、客観的に論じるに十分な長さではないか。
開戦にいたった責任、戦争の終結を遅らせた責任、敗戦したことの責任。
おそらくは、自然人としての天皇がどうかということよりも、制度としての天皇の問題であると思う。
しかし、責任を負えるのは自然人しかいないのではないか。
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