長野県知事選をめぐる感想
長野県知事選で、民主、社民、国民新が推薦する元副知事の阿部守一氏(49)が当選した。
前副知事の腰原愛正氏(63)に競り勝った。
他県のことではあるが、この知事選の結果には関心を持っていた。
それは、第一に、阿部氏と腰原氏が共に副知事経験者であって、政権交代時の与野党対決の図式が再現したかの感があったことである。
腰原氏は、村井仁前知事の副知事である。
大町市長や長野県市長会長などを務めた。
自民党と公明党が実質的に支援した。
旧来型の政治家の典型のような履歴である。
阿部氏は、旧自治省出身のキャリア官僚である。
田中康夫氏が知事の時代に、長野県副知事になった。
山口県、岩手県、神奈川県、愛媛県など自治体現場での勤務経験を持つ地方自治の専門家だ。
構想日本の事業仕分け人でもある。
参院選で雲行きの怪しくなった民主党政権の今後を占う意味もある。
田中氏の掲げた「脱ダム」の理念の評価という意味もある。
結果は、僅差ではあるが、阿部氏が制した。
この2人の対決だけに限れば、私は阿部氏が勝ってよかったと思う。
私は、ダムを含めて公共事業全般を否定するものではない。
しかし、「脱ダム」の旗を掲げた田中康夫氏の功績は大きいと思う。
政権交代を具現化することになる大きな一石だったと思う。
私の関心は、もう一人の候補者松本猛氏にあった。
松本氏は、5月まで安曇野にある、いわさきちひろ美術館の館長を務めていた。
母はいわさきちひろさんで、父は元日本共産党衆議院議員の松本善明氏である。
善明氏は共産党の論客として知られたが、猛氏の経歴に政治志向は窺えない。
阿部氏と腰原氏が、共に政治家を志してきたのとは対照的である。
私は、いわさきちひろファンである。
いわさきちひろは子どもを生涯のテーマとして描き続けた画家でした。
モデルなしで10カ月と1歳のあかちゃんを描き分けたちひろは、その観察力とデッサン力を駆使して、子どものあらゆる姿を描き出しています。
松本猛氏は、母いわさきちひろの作品を守る美術館と県立の信濃美術館の館長を兼任していた。
入館者数を飛躍的に伸ばしてきた実績があるが、役所の中にいてものごとを改革していくのがいかに難しいかを痛感してきたという。
そのことが今回の立候補の動機にもなった。
松本氏は、共産党の応援を受けていた。
民・社民・国民新VS自・公の図式に対しては、父親との関係もあって当然のことかも知れない。
松本氏の応援団に、窪島誠一郎氏や勝谷誠彦氏がいる。
勝谷氏は、自身のメルマガで次のように語っている。
なかでも窪島さんの話は私の胸を打った。ご存じのように水上勉さんのご子息である窪島さんは松本さんと同じく美術館というものを運営する立場として、それがいかに「アナログ」なものかを語った。いかにウェブが発達しても実物を観せることに美術館は命をかけるのである。そしてそれは、知事として現場に触れることにほかならないと。そのことを識っている松本さんはきっといい知事になるだろうというのだ。
そこまではわかった。しかし、そのあと窪島さんはほとんど涙ぐみながら「いまもっとも辛い時代を迎えている美術館の世界から、松本さんという人を喪うことは辛い」と訴えたのだ。まさに本音であった。と同時に美術館という組織の「経営者」としてまことに成功している松本さんの手腕を讃えることでもあり、それがひとつの県の知事としても発揮されるであろうということを聴衆の心にしみ込ませたのだ。
勝谷氏は、TVの討論番組ではかなり荒っぽい議論をする人のような印象を受ける。
しかし、書いたものを読むと、繊細な精神の持ち主であることが分かる。
今度の選挙に彼を駆り立てたのもそういう精神によるのだろう。
⇒2007年9月 2日 (日):偽装国家
窪島誠一郎氏は、上田市の戦没画学生のための美術館・無言館の館主である。
⇒2007年12月 8日 (土):血脈…②水上勉-窪島誠一郎
⇒2009年8月15日 (土):無条件降伏か、有条件降伏か?
結果は、大政党に敵うべくもなかったが、松本氏のような人が首長になる土壌は少しずつできているのではないか。
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