« 「恐竜の脳」の話(2)オウム真理教をめぐって | トップページ | 「恐竜の脳」の話(3)ホリスティック医学の可能性 »

2010年5月 9日 (日)

闘病記・中間報告(5)回復期リハビリについて

脳卒中の発症後の経過は、一般に、急性期、回復期、維持期に分けられる(木村彰男監修『脳卒中のリハビリと生活』主婦と生活社(0805))。
2

私は、現在、上記区分において、回復期にある。
つまり、救急病院で過ごしたのを急性期と位置付け、リハビリの専門病院に転院した後が回復期ということになる。
急性期の病院には約3週間いたことになるが、リハビリ病院に入院の申し込みをしてから、1週間ほどの待ち時間があった。
もちろん、急性期もリハビリを行うが、本格的なリハビリのための準備期間のようなものである。
その意味で、リハビリ病院へは、なるべく早く転院することが望ましい。
私は、いくつかの候補病院のなかで、最も早く入院できそうな病院を選び、実際に比較的早く転院できたのだが、それでも1週間ばかり待機状態だった。

急性期の病院で同室だった人は、家族の利便性等を考慮して別の病院を選んだが、私より先に申し込みをしたにも拘わらず、実際に転院できたのは、私より後になっている。
回復期のリハビリを必要とする人が、それだけ多いということである。
現在入院中の病院でも、退院する人の後、すぐ別の入院患者が入ってきて、常時ほぼ満床といった状態である。

1月中旬に転院したから、既に4ヶ月近くが過ぎたことになる。
最初は、途方もなく長期間に感じられた入院生活だが、途中で「どうにもならないものは、ジタバタしない」と腹を括ったこともあって、意外に早く過ぎて行った。
脳卒中の症状は人によって千差万別である。従って、リハビリの状況も、人それぞれである。
しかし、上図の一般的な経過に照らしてみても、今のところ、私はごく標準的だと言っていいようである。

回復期リハビリテーションは、日常生活への復帰を目的としている。
たまたま読売新聞の「病院の実力」という連載記事で、回復期のリハビリテーションを取り上げていた(100502)。
回復期のリハビリ病院において重要なのは、専門職の質と量である。

専門職とは、主として、以下のような療法士(therapist)のことである。
PT(Physical Therapist:理学療法士)身体の基本的な動作能力を回復させるための運動療法などを担当
OT(Occupational Therapist:作業療法士)着替えやトイレなどの日常生活訓練、手先の細かい作業を行う訓練などを担当
ST(Speech Therapist:言語聴覚士)聞いたり話したりする際の問題や、うまくのみこめない症状(嚥下障害)の改善を図る
私の入院している病院にも、これらの療法士が揃っていて、そろぞれ熱心に職務を担当されている。

なお、これらの専門職は、アプローチの方法が異なるだけで、効果については重なる部分が少なくない。
たとえば、私は言語訓練の一環として、「漢字の練習」の自主トレメニューをもらった。つまり、「書き取り」である。
右手の回復が容易ではないことを悟ってから、「左手の練習」として積極的に取り組むことにした。
その結果として、字はさほど上手くなっていないが、箸の使い方が上達した。
箸の使い方自体は上記の区分で言えばOTの担当になるが、患者の立場からは、「どちらでもいい」ことである。

専門職の人数などを基準として、2000年に「回復期リハビリ病棟」が新設された。
私の入院先は、リハビリの専門病院として草分け的存在であり、もちろん回復期リハビリ病棟として位置づけられている。
回復期リハビリ病棟に入院できる日数は、脳卒中なら一般に150日、大腿骨などの骨折や、手術後などの筋力低下による身体の衰え(廃用症候群)は90日、股関節や膝関節あどの神経や靱帯損傷は60日と、病気の種類ごとに決まっている。
これも病状に係わりなく一律に決めるのは、如何なものかと思う。

私の病院の場合には、患者ごとに、担当療法士が決まっており、医師、看護師、医療ソーシャルワーカーを含めたチームが形成されていて、定期的にカンファレンスが開かれている。
その結果として、個別の「リハ総合実施計画書」が作成され、患者に示されている。
その他に、週に1度主治医の診察がある。
主治医は随時患者の様子を診るため、巡回している。

治療という行為が、「See→Plan→Do→See→Plan……」というマネジメント・サイクルを辿るものであることを再認識した。
ただし、Doの対象は、意思ある人間である。
先ず、一般的に言って、もっと患者に「リハ総合実施計画書」を理解させるべきであろう。
患者は、設定されたメニューが、ゴールに向かってどういう位置づけなのかを、知っているのと知らないでするのでは、モチベーションが異なるはずである。
特に、STなどは、効果が理解され難いようである。

また、精神状態が、リハビリ全体の効果を左右するはずである。
リハビリをしなければならない人の多くは、今までごく普通に行っていた行為(たとえば歩いたり、食事をしたり、会話をしたりというような)ができないことに、大きな喪失感を持っている。
その精神的な状態をどうケアするか。

mental面を含めたリハビリは、physicalな問題よりも、より個別的で、より微妙であろう。
私の場合、リハビリそのものは、想像していたほど(人が言うほど)辛くはなかった。
むしろ、再発の可能性、社会復帰ができるかどうかなどの不安感がより辛いものであるように思う。
mental面の対応は、個人情報の扱い等も含めて、今後に残されている課題が多いのではなかろうか。

|

« 「恐竜の脳」の話(2)オウム真理教をめぐって | トップページ | 「恐竜の脳」の話(3)ホリスティック医学の可能性 »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

闘病記・中間報告」カテゴリの記事

コメント

4月23日に脳卒中で入院しました3日げに出血が広がったらしいのですがそのご手も上がり指もうごきリハビリ病院に転院してきましたが現状と今後が不安です自覚としてはひだりにしびれはありますが回復してるようにおもいますがいかがかアドバイスしていただけますか

投稿: アニー | 2010年5月21日 (金) 21時48分

アニー様 

私は医者ではありませんし、具体的な症状も存じ上げないので、アドバイスなどできる立場にありません。
私の体験したことは記事に書いた通りです。
ただ、あなたの場合、私よりも初期症状は軽いようですので、忍耐強くリハビリを続けることにより、いつか回復すると思います。
私自身「リハビリは裏切らない」を信じて途上にあると思っています。

投稿: 管理人 | 2010年6月 1日 (火) 06時48分

脳出血をして、今まさに、回復期の病院への転院待ちをしている所です。
とても共感して拝見させていただきました。ありがとうございます!

投稿: アキコ | 2012年9月20日 (木) 06時10分

アキコ様

コメント有難うございます。
私も、発症から既に2年9カ月が過ぎました。
現在もリハビリ中ですが、回復の様子は人により千差万別ですね。回復期病院へ転院されるとのこと、できるだけ早い段階に集中してやることが重要だと思います。ただ、転倒などすると、また振り出しに戻りかねませんので、適度のムリという微妙なレベルが重要ではないでしょうか。その辺の感覚は本人が一番的確でしょうから。
長いリハビリになるかも知れませんが、精神の状態が重要だと感じます。
頑張ってください。

投稿: 夢幻亭 | 2012年9月20日 (木) 11時51分

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 闘病記・中間報告(5)回復期リハビリについて:

« 「恐竜の脳」の話(2)オウム真理教をめぐって | トップページ | 「恐竜の脳」の話(3)ホリスティック医学の可能性 »