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2009年12月 8日 (火)

専門家による「八ツ場ダム計画」擁護論(4)八ツ場ダムの治水上の意義

東京大学名誉教授の虫明功臣氏は、『八ツ場ダムは本当に無駄なのか-治水と水資源の観点から考える』(「正論」09年12月号)において、洪水の処理法は、流すか、溜めて調節するか、の2つの方法である、とする。
そして、沖積平野の河川では、洪水を安全に流下させるために、川幅を決めて堤防が築かれるが、日本では土地利用が高度化しているので、広い川幅を採ることが難しい。
流下させる洪水量を増やそうと思えば、堤防の高さを高くするしかないが、堤防を高くすると、破堤したときの氾濫流の量とエネルギーが大きくなり、被害が増大する。
堤防を高規格化して、切れない堤防にすればいいが、時間とコストを考えると、現実的ではない。

一方で、溜めて調節する方式(ダムや遊水地)は、河川の洪水の水位を下げるという役割を果たす。
破堤したときの水位を下げることが、被害を局限することに繋がるので、治水計画では洪水位を下げることが基本となる。
また、堤防の整備・強化には長時間を必要とし、経時的に劣化することが避けられないので、継続的な維持・補修が必要である。
利根川のように堤防延長の長い河川では、とりわけ洪水位を下げることは大きな意味を持つ。

数値が公表されていないということであるが、虫明教授は、八斗島下流において、上流ダム群が基本高水の水位を低減する効果を、1m数十cmと推測している。
八ツ場ダムは、上流ダム群の中で最も大きな治水容量を持ち、有効な水位低減効果が期待される、とする。
つまり、八ツ場ダムは、無駄なダムではなく、利根川の治水計画の上で、極めて必要性の高いダムである、というのが虫明教授の結論である。

ダムには、治水のための洪水調節機能のほかに、水資源開発機能が期待されている。
日本の河川において、水利権の対象となる安定して流れている流量は、ほとんどが農業用水として利用されてしまっている。
生活用水や工業用水などの新規需要に対しては、ダム等によって、安定して取水できる流量を増やさなければならない。

首都圏における水資源開発は、主として利根川・荒川水系に依存してきた。
水資源開発が重要に追いついていない場合には、流量が豊富なときに限って取水の権利を認める暫定水利権が設定されている。
利根川・荒川水系では、特に暫定水利権が多い。
首都圏の水資源計画上、八ツ場ダムは重要な位置づけがなされている。
1都5県の知事が中止反対を唱えているのも、首都圏の水需給の不安定さによるところが大きい。

虫明教授は、地球温暖化による気候変動の悪影響への対応策としても、八ツ場ダムは被害を軽減するのに有効に機能する可能性を持っている、としている。
確かに、個人的な実感として、暖冬化が通例のようであり、集中豪雨等が凶暴化しているように思う。
しかしながら、、地球温暖化の現象と原因については、いまだ確定的なことが言えない段階のようである。
この部分については、虫明教授も「可能性を持っている」とやや控えめな表現となっている。

同じ「正論」の09年12月号に、地球物理学者でアラスカ大学名誉教授の赤祖父俊一氏が、『地球温暖化の原因は炭酸ガスにあらず』という論文を寄稿している。
赤祖父名誉教授は、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の論議が、鳩山首相や国民世論をミスリードしている、と批判している。
赤祖父名誉教授によれば、地球温暖化の原因は大気中の炭酸ガス等の濃度の上昇によるものではなく、そのほとんどが自然変動と捉えるべきものであるとしている。

つまり、紀元1000年以後の大きな気候変動は、先ず、1400年ごろから1800-1850年ごろまで、「小氷河期」が続いたおとである。
世界平均で約1℃低く、世界各地で飢饉が起きた。
現在は、その小氷河期からの回復中である。
つまり、寒い期間から回復していることが温暖化であって、0.5℃/100年のペースである。
おそらく、2100年まで、このトレンドが続くと予測される。
2100

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