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2009年12月 5日 (土)

専門家による「八ツ場ダム計画」擁護論

「今後の治水対策」が検討されており、河道主体から流域全体での対応という方向性が打ち出されたとしても、ダムが全面的に不必要になるというわけではない。
どうしても必要なダムと、必ずしも必要というわけではないダムとに「仕分け」がなされることになるだろう。
それでには、当面の焦点となっている八ツ場ダムについてはどうだろうか?

11月26日には、地元の「八ツ場ダム推進吾妻住民協議会」が国交省に5万人余りの、八ツ場ダム中止撤回の署名を提出した。
また、関係6都県の知事も、中止反対を唱えている。
八ツ場ダムについては、賛否両論が対立したままで調整の見通しは立っていない。
専門家はどう見ているだろうか?

雑誌「正論」の2009年12月号に、東京大学名誉教授の虫明功臣氏が『八ツ場ダムは本当に無駄なのか-治水と水資源の観点から考える』という論文を寄稿している。
虫明氏は、東大工学部の出身で、東京大学の教授を定年退官後、現在は福島大学の教授を務めている。
専門は、水文学と水資源工学であり、社会資本審議会河川分科会、国土審議会水資源開発分科会などに係ってきた。
現在の水文学分野における第一人者ということになるだろう。

虫明教授は先ず、現在、河川・水資源行政は曲がり角にあり、開発重視からマネジメント重視へ、関連分野の総合性を求めるという方向へ舵を切りつつある、という。
そして、このような河川・水行政の見直しについて、大歓迎である、としている。
おそらくは、この度設置された「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」(座長・中川博次京大名誉教授)においても、マネジメント重視、関連分野の総合性を求める、という方向性で論議が収束されていくことになるだろう。

上掲論文において、虫明教授は、自身の前門の立場からすると、「八ツ場ダム中止」は暴論と言わざるを得ない、という。
八ツ場ダムは必要性が高いダムであるにも拘わらず、代替案を示すことなく、ダム本体着工前の計画を中止するというのは、強引で理不尽な政治決断だと断罪している。
そして、八ツ場ダム計画の妥当性を以下ののように論じている。

先ずは、利根川水系における治水の重要性である。
利根川水系は、群馬、栃木、埼玉、茨城各県の山地を水源として、広大な関東平野を流下し、下流には東京都、埼玉県、千葉県という人口稠密地帯がある。
言うまでもなく、日本において治水上最も重要な河川である。

一方で、利根川が、日本で最も治水の難しい河川である。
それは、勾配の緩やかな平野部を流れる距離が長く、規模の大きな支川を合流することにより、洪水流量が増加するからである。
利根川は、17世紀初頭以前には、東京湾に流れ込んでいた。
2009年9月14日 (月):八ツ場ダムの入札延期 その3.利根川における水資源開発
江戸時代に、埼玉平野を流れていたいくつかの派川を統合し、関宿付近の台地を開削するなどして、利根川と当時の常陸川を接続し、銚子方面へつないで、現在の流路とした。
いわゆる利根川東遷事業と呼ばれるものである。

利根川東遷事業については、その意図と経緯について多くの論議がある。
虫明教授は、東遷事業の主目的は、関東周辺や特に東北地方から江戸への物資を輸送する舟運体系整備の一環であった、とする。
そのため、利根川下流への開削部の川幅が狭く、銚子方面への洪水の分派量は極めて少なかった。
天明3(1783)年の浅間山大噴火により、利根川の河床が上昇し、氾濫被害が激化した。
2009年10月15日 (木):八ツ場ダムの深層(5)浅間山大噴火の利根川への影響
これに対処するため、幕末にかけて開削部の拡幅が行われたが、本格的に下流部への洪水分派量が増強されるのは、明治29(1896)年に、旧河川法が制定されて以降のことである。

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