「八ツ場ダム計画」の行方
前原誠司国土交通相は、建設中止を表明していた「八ツ場ダム」について、新たな治水対策を検討する「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」(座長・中川博次京大名誉教授)が、ダム事業の継続を評価する新基準を策定するのを待ち、その新基準に従って「再検証」する方針を明らかにした。
民主党は先の政権交代を果たした衆院選のマニフェストにおいて、「ムダづかい」をなくすことを第一に挙げた。
その第一として、公共事業における「ムダ」が取り上げられており、「川辺川ダム」「八ツ場ダム」は中止、と明記されている。
時代に合わない国の大型直轄事業は全面的に見直すとしており、その代表例として、八ツ場ダムが取り上げられていたわけである。
2009年9月12日 (土):八ツ場ダムの入札延期 その1.計画の現況
民主党の新政権が発足し、国土交通相に就任した前原氏は、このマニフェストに沿って、早速「八ツ場ダム」の建設中止を表明した。
2009年9月18日 (金):八ツ場ダムの入札延期 その7.政権交代と行政の継続性
マニフェストは、政権取得時に果たすべき国民との約束であるから、前原氏の建設中止の表明は、ごく当然のことであった。
しかし、これに対し、地元の反発は激しいものであった。
そもそもの計画の契機は、昭和22(1947)年のカスリーン台風であるから、それから数えれば既に60年以上の時間が経過している。
地元住民に計画が提示された昭和27(1952)からでも、57年である。
この間、地元の強い反対運動があったが、昭和60(1985)年には計画を受容することになった。
しかし、その後も補償の条件等が難航し、ダム本体工事が遅延しているうちに、建設中止をマニフェストに掲げる民主党を中心とする政権交代が起きてしまった。
地元住民としては、長期間翻弄された上に計画の変更では、「今までの苦労は何だったのか?」という思いがすることは当然のことである。
1都5県も、既に相応の負担をしており、自分たちの意見を聞かないで中止を決めるとは何事か、と怒りを表明している。
一方で、今までの国土交通行政のあり方を考え直すためのシンボル事業になってしまっている。
おいそれと、建設推進に政策転換することもできないだろう。
したがって、「有識者会議」の判断を尊重するというのは、1つの政治判断だろう。
「有識者会議」では、「八ツ場ダム」の妥当性について、様々な角度から検証してもらいたい。
中条堤の遊水機能が失われた時点で、上流ダム群の調整機能に大きな配分が課されるのは必然的な論理である。
しかしながら、「八ツ場ダム」以外に代替案はないのだろうか?
一例として、片品村に予定されていた幻のダム計画がある。
片品村は、同じ群馬県であるが、尾瀬の玄関口に位置している。この「片品ダム」と「八ツ場ダム」を比較すると、以下の通りだという。http://blogs.yahoo.co.jp/ken1121souma/34780313.html
1 ダムの貯水量 ほぼ同じ
2 工事費 片品ダムは八ツ場ダムの4分の1の工事費
3 水質 片品のほうがいいそうです(水道水の供給が目的)
4 住民の反対 片品は建設で水没住宅ゼロ、そこで地元では大歓迎
上掲サイトでは、片品村は山村で、産業がさしてない、としている。
温泉とスキー場とハイキング客主体の観光の村だから、観光名所が増えるので地元は大歓迎の意向だったという。
治水上、あるいは水資源開発上、「八ツ場ダム」と同じ規模のダムは、もう1つは不要とのことで、建設中止になったという。
ここで疑問は、なぜ工事費が1/4の「片品ダム」の方が棄却されたのか、ということである。
選択の基準は、「片品ダム」は設計段階で、「八ツ場ダム」は既に工事段階に入っていたから、ということのようである。
あるいは、工事費の大きな事業の方が、建設業界が潤うから、などということもあながち邪推ではないのかも知れない。
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