「卑弥呼=天照大神」説の否定論(3)母集団と標本
坂田隆氏は、『卑弥呼をコンピュータで探る-安本美典説の崩壊』青弓社(8511)において、安本美典『新考邪馬台国への道-科学が解いた古代の謎』筑摩書房(7706)における数理統計学の手法を批判している。
坂田氏は、まず、安本氏の説を引用する。
その批判の論点は、以下の通りである。
1.安本氏がここで母集団平均値、母集団標準偏差としているのは、それぞれ標本平均値、標本標準偏差である。
つまり、安本氏は、母集団と標本を取り違えているのではないか?
「母集団と標本」に関しては、下記でみたばかりである。
2009年12月11日 (金):「同じ」と「違う」(12)母集団と標本
坂田氏は、「母集団と標本」の関係を示すために、鷲尾泰俊『推定と検定 #数学ワンポイント双書 18#』共立出版(7802)から、以下の部分を引用している。
上の三つの例に見られる共通的な性質は、推測をしたい“もの”の集団があり、この集団についての推測をするために、集団から何個かの“もの”をランダムに取り出してデータを得ている、ということである。統計学では、この関係を強調するために、推測をしたい“もの”の集まりを母集団(population)とよび、母集団の推測をするために母集団から取り出されるいくつかの“もの”を標本(sample)とよぶ。標本の中に含まれている“もの”の数を標本の大きさ(size)とよぶ。統計学(数理統計学)は、標本から母集団についての推測をするための方法を与える学問であり、この方法を統計的方法とよぶ。
2.安本氏は、「n」を「n代前の天皇」の意味で用いている。
しかし、引用箇所における「n」は、「標本の個数」の意味である。
つまり、安本氏は、用明天皇から光仁天皇までの19代の天皇の在位年数をもとに、天照大神の活躍時期を推定している。
すなわち、19は、標本の個数であって、通常、数理統計学ではこれを「n」と表わす。
また、天照大神~光仁天皇までの54代までが推計の対象であるから、これが母集団であって、54は母集団の大きさであり、ふつう「N」で表わす。
にもかかわらず、安本氏は、「n」を、本来の「在位年数の知られている天皇の数」の意味で用いたり、「N-n」つまり何代前の天皇かの意味で用いてたりしている。
3.上掲の引用における式(3)は、正規分布をした母集団から、n個の標本を取り出した際に適用できる式である。
天皇の在位年数は正規分布していない母集団であるから、このような母集団に適用することはできない。
坂田氏は、用明天皇から大正天皇までの天皇在位期間のヒストグラムを示している。
図で見るように、用明天皇から大正天皇までの天皇の在位期間の分布は正規分布をしていない。
このような分布の母集団に対して、(3)式のような推計を行うことはできない。
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コメント
1608年にポルトガルから来たロドリゲスが、「日本大文典」なる百科事典を著し、興味深い522年からの倭国年号表を載せているのを見ましたか。家康の顧問をしていたりします。
投稿: いしやま | 2013年12月14日 (土) 09時54分