水銀の化学(10)メチル水銀生成実験
アセチレンの水和反応によって、アセトアルデヒドを合成する工程において、メチル水銀が副生するかどうかを確認する実験が、1960年代初期に、熊本大学研究班によって行われていた。
西村肇、岡本達明『水俣病の科学 』日本評論社(0106)に、その実験報告をもとにしたメチル水銀濃度の時間的変化を示した図が掲載されている。
この実験により、チッソの反応器と同じ条件の実験によって、メチル水銀の生成が確認できた。
図では、アセトアルデヒド濃度は一定の割合で上昇しているが、メチル水銀濃度は濃度が12~13ppmに達したあたりで飽和していることが分かる。
これは、以下のようなメチル水銀の挙動に関する仮説と一致している。
(1)アセチレンを原料として、メチル水銀が生成する。
(2)メチル水銀の濃度の上昇と共に、生成速度が減少し、最終的には低指する。その結果として、メチル水銀濃度は右肩上がりで上昇した後、最大濃度に達して頭打ちとなる。
頭打ちが実証されたから、反応機構が実証されたというわけにはいかない。
別の反応が起きていて、メチル水銀の濃度が飽和した可能性もあるからである。
上掲書には、この他に、アセトアルデヒドを原料にしたメチル水銀の生成反応、酢酸を原料にしたメチル水銀の生成反応、アセトアルデヒドに酢酸を加えた場合のメチル水銀の生成反応の結果について比較検討している。
詳細は割愛するが、メチル水銀生成反応には、酢酸へのバイパスが存在する有力な根拠が得られた。
酢酸に容易に変化するのは、水銀化酢酸であり、中間体として、水銀化酢酸が生成しているという著者らの仮説が裏付けられたことになる。
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