水銀の化学(14)アセチレンと水銀の結合
水銀イオンのd電子の軌道のうちのdxy軌道は、複占状態である。
この軌道から1個の電子が、炭素の反結合性のπ軌道(空状態)に移ることにより、d軌道もπ軌道も単占状態になる。
アセチレンのπ軌道と水銀イオンのd軌道が交差することによって、新しい結合性の軌道が生まれる。
それが金属の配位結合と呼ばれるものである。
ところが、この結合は安定的ではなく、近くにある水酸基イオンを分子内取り込んで(3)、安定な分子(4)を形成する。
(3)はきわめて不安定で短寿命のため、実験的に捉えた事例は存在しない。
西村肇、岡本達明『水俣病の科学 』日本評論社(0106)の著者の1人である西村氏は、上記のような説明は、一般の有機化学の教科書、専門書には、水銀のことはまったく出てこないという。
有機金属化学の専門書には、二重結合に対する遷移金属の働きについて説明されていることがあるが、水銀については普通は全く触れられない。
それは「水銀は遷移金属とはみなさない」というのが通念になっているかららしい。
ちなみに周期(律)表において、遷移元素と呼ばれる元素がある。
周期表の3族~11族の元素は遷移元素と呼ばれ、典型元素とは異なる以下のような性質を持つ。
☆最外殻電子数が族番号の一の位と一致しない。典型元素では、同じ周期の中で族番号が大きくなるごとに最外殻電子が1つずつ増えていくが、遷移元素では電子は内側の電子殻に電子が入り、最外殻電子はほとんどの場合1つまたは2つである。
☆典型元素は同族元素で性質が似るのに対し、遷移元素では原子番号の隣り合う原子どうしで性質が似ている。
☆遷移元素はすべて金属元素である。いずれも融点が高く、密度が大きく、スカンジウム(Sc)とチタン(Ti)以外は重金属である。
☆さまざまな酸化数の化合物を作ることができる。
☆典型元素のイオンや結晶は白色あるいは無色のものが多いが、遷移元素のイオンや結晶は色の付いているものが多い。
http://ja.wikibooks.org/wiki/%E9%AB%98%E7%AD%89%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E5%8C%96%E5%AD%A6I/%E9%87%91%E5%B1%9E%E5%85%83%E7%B4%A0%E3%81%AE%E5%8D%98%E4%BD%93%E3%81%A8%E5%8C%96%E5%90%88%E7%89%A9/%E9%81%B7%E7%A7%BB%E9%87%91%E5%B1%9E
水銀の専門家向けの叢書『Comprhensive Organometalic Chemistry』では、水銀は遷移金属として扱われているという。
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 藤井太洋『東京の子』/私撰アンソロジー(56)(2019.04.07)
- 内閣の番犬・横畠内閣法制局長官/人間の理解(24)(2019.03.13)
- 日本文学への深い愛・ドナルドキーン/追悼(138)(2019.02.24)
- 秀才かつクリエイティブ・堺屋太一/追悼(137)(2019.02.11)
- 自然と命の画家・堀文子/追悼(136)(2019.02.09)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント