水銀の化学(7)チッソ水俣工場からの廃液と水俣病の発症/因果関係論(5)
私たちは、水俣病については、因果関係の科学的な解明はずっと以前に終わっており、救済措置が政治的な判断や法的な手続きなどの関係で遅延してきた、と考えがちである。
ところが、西村肇、岡本達明『水俣病の科学 』日本評論社(0106)によれば、同書以前には、「何が原因でこの大惨事が起こったのか、その原因と結果をつなぐ連鎖が科学的なレベルでは全く未解明、謎につつまれたまま」の状態であった、という。
たとえば、無機水銀を触媒に用いてアセチレンからアセトアルデヒドを合成するプロセスにおいて、メチル水銀が副生する生成機構が分かっていない。
もちろん、簡単な反応式は示されている。
2009年10月29日 (木):水銀の化学(3)嫌われ元素?
しかし、著者らによれば、その説明は「古い化学」に基づくものであり、「今日の化学」のレベルでは説明になっていない。
あるいは、メチル水銀の排出量を定量的に把握し、「なぜ水俣で」「なぜ操業から20年経って突然に」を説明できなければならない、とする。
著者らは、工場のプロセス内でメチル水銀が生成する段階から、水俣病が発病するまでの因果関係を図のように示す。 ①~④までは工場の化学プロセスである。
④~⑦は、自然界でのプロセスである。
前者は、データがあれば推論の精度は高い。
しかしながら、メチル水銀排出に関するデータは全くといっていいほど存在しない。
後者は、現実に起きている現象であり、情報量は多いが、推論の精度(定量性)に問題がある。
著者らは、上方からの推論と下方からの推論を組み合わせて、全体像を把握する努力を行った。
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