卑弥呼の死(9)風邪・肺炎説
卑弥呼の死因については、前後の文脈等から、狗奴国との戦争で戦死もしくは敗戦の責任を追及されて死んだ(あるいは殺された)とするのが有力説のようである。
しかし、独自の分析によって、病死の可能性が強いと主張している人がいる。
岩下徳蔵氏は、『推理邪馬台国』楽游書房(8304)や『稲の路の果てに邪馬台国はあった』徳間書店(8406)において、卑弥呼は風邪あるいはそれがこじれた肺炎であった可能性が高いとしている。
岩下氏は、人の死は、外部から加えられる物理的な力によるもの(戦争など)と、肉体の内部でおこるいわゆる病気などの2つの原因に分けられるが、疾病などによるものは、季節性を伴う場合が多い、としている。
そして、この疾病の季節性に着目し、弥生期の死因が何であった可能性が高いかを統計学的に推定しようと試みた。
その具体的な方法は、『記紀』による歴代天皇の死亡月の分布型と、現在の死亡統計による疾病別の月別の分布型との相関関係を計算し、当時の死亡原因を推定しようとするものである。
岩下氏の計算により相関係数は表のようであった。 ★印が統計的に有意な相関関係を持つものである。
上代天皇の死亡月分布型と、現代死因別月分布との相関係数は、インフルエンザ・肺炎・気管支炎を因とする死亡分布と高い相関係数(0.72)を示す。
岩下氏は、疾病別月別死亡率のグラフも示している。
現在の死亡分布は冬・夏型であり、それは冬カゼ・夏カゼによるものが多いことを示している。
悪性新生物による死亡は明らかに異なる分布型を示している。
死因としての悪性新生物は、近代になって急に増加した病気である。
なお、岩下氏は、上代と近代の天皇の死亡月別分布が高い率で相関を示すことは、81代~129代天皇の死亡月が史的文献に比較的正確に記録されていることから、上代天皇(大王)などの実在も示唆しているのではないか、としている。
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