水銀の化学(8)アセチレンからアセトアルデヒドへの転換
メチル水銀は、次のように説明されている(Wikipedia:最終更新 2009年10月24日 (土))。
メチル水銀(メチルすいぎん、Methylmercury)とは、水銀がメチル化された有機水銀化合物であり、ジ
メチル水銀 (CH3)2Hg とモノメチル水銀 CH3HgX(X = Cl, OH など)が知られており、いずれも毒性が強い。
(図は、ジメチル水銀)
このXが取れた状態は、電子1個分のプラスの電荷を持つイオンであって、水に溶けた状態で存在する。
人間や動物の体内では、メチル水銀はこのイオンの状態で損際するといわれる。
チッソ水俣工場では、アセチレンを水和してアセトアルデヒドを得ていた。
アセチレンの分子式は、C2H2、構造式は HC≡CHで、炭素間の結合は三重結合と呼ばれる。
アセチレンの三重結合は付加反応を受けやすい。ニッケルを触媒として水素を付加させるとエチレンになり、さらに水素を付加させるとエタンになる。
アセチレンは燃焼するときに多量の燃焼熱を発生するので、バーナーの燃料として用いられる。
かつては アセチレンランプ(カーバイドランプ)として照明用に使われていた。
私が子供の頃は、お祭りの夜店の照明にアセチレンランプが使われていて、その臭いが何となく郷愁をそそる感じがするものである。
アセチレンからアセトアルデヒドを得る反応は、水和反応、すなわちアセチレンに水が付加した形となっている。
HC≡CH+H2O → [CH2=CH(OH)] → CH3CHO しかし、アセチレンに水がつくわけではなく、実際はアセチレンの片方の炭素に水素イオンが、もう1つの炭素に水酸イオンがついてビニルアルコールとなり、その後二重結合の位置が移ってアセトアルデヒドになる。
図(西村肇、岡本達明『水俣病の科学 』日本評論社(0106))に示されているように、アセチレンがアセトアルデヒドに転換するには、<中間体1>とビニルアルコールという2段階の反応中間体を経る。
<中間体1>は、炭素の一方に水銀が結合したものであり、これが水素と入れ替わってビニルアルコールになる。
水素は、自分の力では三重結合を切って自分がそこに入りこむ力がなく、水銀イオンが三重結合を切る働きをしている。
水銀イオンは、ビニルアルコールを生成する段階で放出されるから、反応の前後では元通りになる。
つまり触媒である。
このような過程を経ていれば、水銀イオンは反応の前後で量は不変である。
つまり、メチル水銀は発生しないはずである。
ところが、実際は、反応器の中では2価の水銀イオンが減って、金属水銀が増えるという現象が起こっている。
触媒反応だけではない、別の反応が起きていることになる。
この反応は、ビニルアルコールから酢酸が生成する反応である。
ビニルアルコールとアセトアルデヒドは、二重結合の位置が異なるだけの異性体であって、容易に移り変わる。
実際の存在形態としては、両者が混在していると考えられる。
ここで<中間体2>が生成するが、この<中間体2>から酢酸が生成する際、水銀イオンではなく、電荷を失った水銀としての形で抜ける。
つまり、水銀イオンが元の形に戻らないということになる。
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