水銀の化学(6)自然界における水銀の循環
水俣病の原因物質であるメチル水銀については、当初、魚介類もしくは微生物中で無機水銀がメチル化する、という説が唱えられていたことがあった。
チッソのアセチレンをアセトアルデヒドに転換する工程で、触媒として用いられている無機水銀から副反応によって生成することが確認され、生物の関与については否定的に捉えられることになった。
2009年10月29日 (木):水銀の化学(3)嫌われ元素?
ところが、スウェーデンで、1965年に穀食鳥とこれを餌とする鳥とが急減する現象が起き、それが農薬に起因すると想定されたことから、大規模な自然環境調査が実施された。
調査の結果、魚中に高濃度の水銀が蓄積されていることが分かった。
しかし、それと農薬のメチル水銀とは直接関係ないことも分かり、環境中に放出された無機水銀が、自然界でメチル水銀化する、という仮説が再び浮上した。
自然界での無機水銀の有機化、有機水銀の無機化について数多くの研究が実施され、自然界における水銀の循環については、図のような各種のプロセスがあることが分かった。 (日本化学会編『嫌われ元素は働き者 #一億人の化学# 』大日本図書(9203))。
たとえば、湖底の堆積物中にいる微生物が、無機水銀をメチル水銀化する作用を示すことなどが明らかにされた。
上掲書の「有機水銀化合物」の章を担当している小熊幸一氏は、章末で、「最近、ネズミの肝臓から有機水銀を無機水銀に変える酵素が日本の研究者により発見され」ていることを紹介している。
水銀利用の歴史は古いが、いまだ解明されていないことも少なくない。
水俣病は、食物連鎖により汚染物質が濃縮された、と説明されている。
食物連鎖とは、図のように、植物プランクトンを動物プランクトンが食べ、それを小魚が食べ、さらに小魚を大魚が食べる、という生態系の連鎖である。 西村肇、岡本達明『水俣病の科学 』日本評論社(0106)は、水俣病の全容を解明した労作である。
この書の中で著者らは、一般論としてはこのような食物連鎖の説明は正しいが、特定の場所における特定の生物種については、このような典型例による説明は成立しない、と警告している。
あくまで現場の事情を踏まえることが重要だ、ということである。
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