水銀の化学(9)メチル水銀の生成機構
アセトアルデヒドの反応器の中で、メチル水銀はどのようにして生成したのか?
アセチレンは炭素2個であり、そこから出発した中間体はすべて炭素2個である。
メチル水銀が生成するとすれば、その炭素と炭素の結合が切れて、炭素が1個になる反応があるはずである。
炭素と炭素の結合が切れる反応は、熱分解反応か、脱炭酸反応(炭素の1個が二酸化炭素になって離脱する反応)である。
脱炭酸反応によってメチル水銀を生成するとすれば、その元の物質は、メチル水銀と二酸化炭素からできている物質ということになる。
それは酢酸のメチル基の水素の1つが水銀で置換されたものである。
西村肇、岡本達明『水俣病の科学 』日本評論社(0106)は、この物質を水銀化酢酸と略称するとし、この水銀化酢酸の生成機構を考察する。
水銀イオンがアセチレンの三重結合の1つを切り開いて、中間体1>をつくり、この二重結合の1つをさらにすぎんイオンが切り開いて 、水銀2個と水酸基2個を結合した<中間体3>をつくる。
その後、1個の水銀が還元離脱して<中間体1>に酸素分子1個が付加した水銀化酢酸が得られる。
この水銀化酢酸が脱炭酸反応を起こしてメチル水銀が得られる。
上掲書には、アセトアルデヒド合成反応器の中で起こっていたであろう水銀の関与する反応の全容が示されている。
その中で、特筆すべき点として次が挙げられている。
1.水銀化酢酸が、水銀イオンと水素イオンの交換で容易に酢酸に変わってしまうこと。
<中間体1>の酸化によって生成した水銀化酢酸は、メチル水銀になるか、酢酸になるか2つの経路があって、どちらに進む可能性もある。
2.水銀イオンと水素イオンに置き換わるイオン置換反応の向きが逆の反応が起こるとすれば、<中間体1>はアセトアルデヒドから、水銀化酢酸は酢酸からできることになる。
言い換えれば、アセトアルデヒドや酢酸を出発原料として、メチル水銀が生成する可能性があることになる。
とすれば、反応器内でメチル水銀が生成する場合、アセチレンを出発原料として直接できるのか、あるいは生成したアセトアルデヒドからできるのかが問題になる。
著者らは、メチル水銀生成の反応機構を実験的に確認するため、アセトアルデヒド合成反応器と同じ反応を実験し、メチル水銀が生成することを確かめる。
しかし、メチル水銀の生成が確認できても、その機構は確認できない。
反応の機構を確認するためには、中間体の生成と消滅を把握できればいいが、中間体の寿命はきわめて短いので、それを実験的に確かめることは不可能である。
そこで、濃度の計測が可能なメチル水銀イオンに着目して、その経時的変化を測定した。
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