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2009年10月31日 (土)

水銀の化学(5)農薬としての利用

水銀化合物は、医薬品だけでなく、農薬としても多用されてきた。
種子や球根などを消毒しておくと、雑菌類や土壌線虫類などによる発芽不全や根ぐされなどを予防することができる。
その殺菌剤として昔から塩化水銀が用いられてきたが、塩化水銀は殺菌力が強いと同時に薬害もあることが分かって、塩化メトキシエチル水銀が開発された。
殺菌力と薬害の小ささの両立が実現したのである。

東亜・太平洋戦争後の食糧難の時代に、わが国の農薬の研究は著しく進展した。
特に、稲の生育期に発生するイモチ病の対策に注力されたが、1952年に、高知県の農業試験場において、酢酸フェニル水銀と塩化メトキシエチル水銀を消石灰で希釈して散布すると、イモチ病に対して特効性があると共に、生育が旺盛になることが見出された。
水銀剤は、稲以外の穀物や野菜、果樹などにも利用され、散布用の水銀剤の生産・使用量は、グラフに見るように、急増していった。
Photo_2 図は、日本化学会編『嫌われ元素は働き者 #一億人の化学# 』大日本図書(9203)。

有機水銀剤の利用により、コメの生産量は増加していき、1955年当時1000㎡あたり250~350kgだった収穫高は、10年後には450kg前後になった。
わが国が、飽食の時代と呼ばれるまでに食糧難を逃れることができたのは、有機水銀系農薬のお陰であるということもできるだろう。

しかし、水銀系の農薬には毒性もあるので、使用者に中毒の発生が絶えなかった。
さらに、イモチ病用に毒性の低い代替品が開発されるようになり、1966年に、農林事務次官通達によって、1968年度には水銀系散布剤の使用を廃止する方針が打ち出された。
世論も、水銀に対する公害に対する批判が高まり、1969年に水銀系土壌殺菌剤が製造中止になったのをはじめ、1973年度に種子消毒水銀剤も製造登録が取り下げられた。
一世を風靡した水銀系農薬は、日本の市場からすべて姿を消すことになった。

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