八ツ場ダムの深層(1)天明3年の浅間山大噴火
一七八三(天明三)年が明けようとするころ、陸奥から常陸、下野にかけての国々は例年になく暖かだった。
上前淳一郎『複合大噴火』文春文庫(9209)は、このような文章から書き出される。
真冬というのに南部八戸ではさっぱり雪が降らず、ふだんならかたく凍りつくはずの道が土埃をあげ、たまに雨が来るとぬかるんで春先の雪解け道のようになった。生ぬるい南風が吹いてあたりには霞がたちこめ、一足飛びに花曇りの季節になったかと思わせた。
天明3年というのは、有名な大飢饉の年である。
この年の6月25日、信濃と上野の国境にそびえ立つ浅間山が爆発した。
夜が明けるころから、ごろごろと石臼をひくような腹に響く音がし、それが次第に激しくなって、午前10時ごろ爆発した。
翌26日、噴煙は勢いを増し、東方の松井田、高崎あたりまで灰が降ってくるようになった。
7月に入ると、噴煙は少しおさまってきたかのようにみえたが、17日夜8時ごろ大爆発が起き、山頂から火がほとばしり出るのがはっきり認められた。 浅間山夜分大焼之図
浅間山の天明大噴火を描いた古絵図・美斉津洋夫氏蔵
「雨年に豊作なく、旱魃に不作なし」
東日本の人びとは、古くからそういい伝えてきた。
南方系の作物である稲は、西日本では暑さは十分でこわいのは旱魃であるが、寒冷な東日本では、必要なのは日照と暑さである。
平均気温が上がらないと、必ず凶作になった。
山背風-オホーツク高気圧から海を越えて吹き下ろしてくる冷たい東北風である。
雨で上がらない平均気温をいっそう押し下げた。
「飢饉は海から来る」というのが、山背風をおそれた陸奥の人びとの言葉である。
この年、オホーツク海の高気圧が異常に強く発達し、長期間居座っていた。
それが、陸奥に冷たい風と雨を継続させた。
浅間山から吹き上げられた火山灰は偏西風に乗り、信濃から北東あるいは南東方面の各地に降灰をもたらした。
武蔵、下野、常陸、越後、出羽、江戸市中に灰が舞った。
降灰は、陸奥にまで及んだ。
7月27日、仙台は雨だったが、小やみになると灰が落ちてくるのが分かった。
会津でも、灰が白く積って、歩くと足跡がついた。
南部領の太平洋岸の大槌では29日朝から灰が降り始め、やがて雨になったために、家の屋根や草木が白い水を打ったようになった。
浅間山は休むことなく連日火を吐き、黒煙を噴き上げていた。
降灰は範囲を広げ、激しさを増していった。
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