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2009年10月27日 (火)

水銀の化学

石室や木棺に塗られた朱は、硫化水銀である。
水銀は、比較的なじみの深い元素ではなかろうか。
最近の体温計はデジタル式になっているが、私たちが子供の頃は、水銀体温計が一般的だった。
何かの拍子で割ってしまうと、中の水銀が玉になって散らばる。
小さな玉を転がしてくっつけると大きな玉になる。
それが面白くて、水銀で遊ぶことがあったが、何となく「毒だから……」と教えられていたような気がする。

ケガをすると赤チン(マーキュロクロム液)を塗った。
ヒザ小僧などに、よく赤チンを塗った記憶がある。
この赤チンに水銀が含まれている。
日本薬局方では、外用殺菌消毒剤として、以下のように記載している。
http://database.japic.or.jp/pdf/newPINS/00011684.pdf

本品はマーキュロクロム2w/v%水溶液である。水銀(Hg:200.59) 0.42~0.56w/v%を含む。
本品は暗赤色の液である。

赤チンとは「赤いヨードチンキ」の略だという。
同じ消毒・殺菌の目的で使われていた希ヨードチンキが茶色であったのに対し、マーキュロクロム液は赤いことから、赤チンと呼ばれるようになった。
マーキュロクロム液は、ジョンホプキンス医科大学(アメリカ)のHugh Youngによって1919年に開発され、傷口に塗っても染みず安価なことから日本でも普及した。
私の体験では、最近赤チンに取って替っているマキロンなどよりもずっと効果的だったように思う。
製造過程で水銀中毒になる恐れがあることから国内では製造中止になった。
子供でも多用していて特段の副作用はなかったのだから、赤チン自体は安全だということだと思う。

マーキュロクロムの分子式はC20H8Br2HgNa2O6で、分子構造は以下のようである。
Photoマーキュロクロムのマーキュロは、水銀の英語名のマーキュリー(mercury)に由来するのだろうが、クロムは何によるものだろうか?

「mercury」は、ギリシャ神話の俊足の神、メリクリウス(Mercurius)にちなむという。
金属にもかかわらず常温で液体という奇妙な性質が、変幻自在で油断ならないメルクリウスの性格と関連づけられたらしい。
古代から存在が知られていたので、発見者は特にいない。

元素記号はHgで、hydragyrum=haydro+argyrum(水のような銀)の略である。
常温で液体である唯一の金属である。
液体時の表面張力が高く、床にこぼした時に拡がらないで球状になることは、子供の頃に体験している通りである。

ところで、「金属とは何か?」と改めて問われると、答えるのはなかなか難しい。
金属では、多数の原子が集まっているが、それぞれの原子の最外殻の電子が、個々の原子核の束縛から解かれて、自由に格子の中を動き回るようになる。
この格子の中を自由に自由に動き回ることのできる自由電子を各原子が共有して結合している状態が金属結合ということになる。
各原子が電子を供出して、その電子をすべての原子が共有して集団を作っている、というイメージである。

上記のような構造により、金属は、次のような特徴を持つ。
1)電気および熱の良導体である。
2)金属光沢を示す
3)展性、延性に優れている。

金属は一般に常温では固体であり、水銀は唯一の例外である。

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