水銀の化学(3)嫌われ元素?
どんな物質でも、利用の仕方によって、メリットを得られる場合もあれば、デメリットを受ける場合もある。
薬だって、適切に処方されたものを適量服用すれば治癒効果があるだろうが、過剰に服用すれば副作用が起こるだろう。
特に効果の強い薬ほどそうなる可能性が高い。
飲酒にしても同様である。
アルコールは、最も安全な向精神剤と言っていいだろう。
適量の酒は、悩みを癒し明日への活力になる。つまり百薬の長である。
しかし、過剰な摂取はさまざまな障害をもたらす。
短期的に精神に作用する要素があるのだから、長期的に過剰摂取すると精神に何らかの影響を残すことになるだろう。
自戒はしているのだが、飲んでいる間は快いことが多いので、往々にして過剰摂取をしてしまいがちである。
ひどい二日酔いになって、後悔したことがある人は多いだろう。
しかし不思議なもので、午前中はしばらくの間酒を見たくない、などと思っていても、夕方近くになるとアルコールが抜けたせいなのかどうか、普段と変わらない状態になっている。
元素も本来的には中立的であるはずであるが、何となく悪役イメージの元素がある。
ヒ素、カドミウムと並んで、水銀も悪役的な立場ではなかろうか?
悪役のイメージは、殺人事件に使われたり、悲惨な公害の原因物質であることによるのだろう。
日本化学会編『嫌われ元素は働き者 #一億人の化学# 』大日本図書(9203)は、これらの「嫌われ元素」が、いかに有効な作用を発揮するかを解説した著書である。
水銀の悪役イメージは、水俣病の原因物質が、有機水銀化合物であると認定されたことによるだろう。
当初水俣奇病といわれていた水俣病が、新日本窒素肥料(チッソ)の水俣工場からの廃液に含まれる水銀が、有機水銀に転化したものであることが明確になった。
2009年7月 7日 (火):水俣病と水上勉『海の牙』
2009年7月 8日 (水):『海の牙』と水上勉の直観力
2009年7月 9日 (木):水俣病の原因物質
チッソではアセチレンをアセトアルデヒドに転換する反応の触媒として、硫酸水銀を用いていた。
アセトアルデヒドは、塩ビや酢酸などの原料である。
その工程の副産物として、塩化メチル水銀が生成する。山口潤一郎『図解入門 よくわかる最新元素の基本と仕組み―全113元素を完全網羅、徹底解説』秀和システム(0703)。
当時は、海に流出してしまえば毒物も希釈されて影響は出ないだろう、と安易に考えられていた。
そのため、特段の対策も取られずに海に排出されていた。
ところが、これが食物連鎖の過程で濃縮され、メチル水銀を高濃度に含む魚介類を食用したことにより、脳の神経細胞を損傷することになった。
水銀といえば、このメチル水銀による水俣病のことが想起され、「悪い物質」というイメージが固定してしまったようである。
しかし、赤チンのみならず、水銀は医薬品の材料としても多用されていたのである。
まさに、薬と毒は裏腹の関係にあるということになる。
なお、アセトアルデヒドの工業的合成法は、現在は水銀を使わない方法に切り替わっている。
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コメント
アリル水銀の酢酸フェニル水銀と、アルキリ水銀であるメチル水銀やエチル水銀の毒性は大きく違うー約10倍ーのに混同しておられるようですね。
またどちらかというと腎毒性の強いアリル水銀と、脳内で蓄積、生体濃縮されるアルキリ水銀の違いを無視した発言だと思われます。
さらにメチル水銀は細胞膜などの材料「グルタコサミン6燐酸」を生成する酵素GFATと結合し、その結果代謝を阻害し細胞を殺してしまいます。
またワクチンに添加されるチメロサールが神経の樹状細胞に死をもたらし、免疫調整異常によるサイトカインによる神経系への攻撃も懸念されることをご存知ないようですね。
製薬会社の回し者がせっせと自分達の犯罪を塗りつぶそうと、デタラメなブログが氾濫していますが
http://tkservice.jp/html
などのサイトを丹念に探せば大ウソだと分かりますよ。
投稿: | 2010年2月 6日 (土) 16時18分