八ツ場ダムの深層(6)吾妻川の地政学
大石慎三郎『田沼意次の時代』岩波書店(9112)によれば、鎌原村を押し流して吾妻川に流れ込んだ火砕流は、途中にいくつもの大きなダムを造っては、それが決壊するという形をとりながら利根川へ流れ下った。
2008年8月の「岩手・宮城内陸地震」では、崩落した土砂が谷を埋め、水を堰き止める「自然ダム」ができていることが確認された。
幸いにして、それが決壊したということは報じられていないが、もしダムが崩壊していたら、惨事を増幅したであろうことは想像に難くない。
2008年6月16日 (月):自然ダムの脅威
浅間山大噴火の際の自然ダムは、次々と決壊したということのようである。
浅間山と吾妻川の地形図を見てみよう。
Googleマップによって、「八ツ場」をキーワードにして得られた図である。
記号は、以下の地点の表示である。
A:群馬県八ツ場ダム水源地域対策事務所
B:群馬県八ツ場ダム水源地域対策事務所
C:国土交通省関東地方整備局 八ッ場ダム工事事務所 総務課
D:国土交通省関東地方整備局 八ッ場ダム工事事務所 川原湯総合相談センター
E:国土交通省関東地方整備局八ッ場ダム工事事務所 三島相談センター
天明3年の浅間山大噴火のようなケースは、予測の範囲外のことであるから、計画論として予め想定しておくことは不可能である。
しかしながら、計画を越えた事態が発生した場合にどういうことが起こる可能性があるかは、全く考慮しなくてもいい、ということにはならないだろう。
仮に「八ツ場ダム」の本体工事が完成した後で、天明3年のような爆発が起きていたとしたら、どういうことになるだろうか?
おそらくは、あっという間に土砂はダム湖を埋め尽くすということになるだろう。
とすれば、「八ツ場ダム」は、巨大な砂防ダムとして機能し、下流域への土砂の流出を防ぐ機能を果たすことになるだろうか?
そうだとすれば、天明の浅間焼けが利根川全川に与えた影響を考えれば大きな効果だともいえる。
それとも、土砂の勢いに抗しきれず、決壊してしまうことになるのだろうか?
とすれば、その被害の状況は、想像すら難しい。
天明3年の浅間山大噴火が引き起こした災害は、連鎖反応的に拡がっていった。
成層圏に上がった灰は、日本のみならず北半球全体に及び、フランス革命の原因になったのかもしれないと推測されるほどに、その影響は広範になる。
「八ツ場ダム」を巡る論議の中で、浅間山大噴火との関連性は、余り議論の対象にはなっていないようである。
しかし、ダム問題のみならず、水問題は、かならず上下流、左右岸に利害の相反をもたらす局面がある。
水問題は、本質的に、地政学的要素を含まざるを得ない、ということになるのではなかろうか。
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