水銀の化学(2)アマルガム
水銀の利用法の1つとして、水銀と他の金属との合金である「アマルガム」がある。
アマルガムは、広義には混合物一般を指すが、ギリシャ語で「やわらかいかたまり」を意味する malagma を語源としている。
水銀は他の金属との合金をつくりやすい性質があり、常温で液体になる合金も多い。
代表的なアマルガムは、銀とスズの合金に銅や亜鉛を添加し、それを水銀で練ったもので、歯の修復材料として用いられている。
銀スズ合金と水銀との反応はアマルガメーション (amalgamation) と呼ばれる。
反応は銀とスズの合金粉末内に水銀が拡散し、合金の表面と水銀が反応する過程を経て中心に未反応部分を残しながら結晶化する。
廉価ではあるが、金属色が目立つことと、水銀が溶け出す危険性があること、とされている。
アマルガムの応用として、金メッキがある。
銅の表面を磨き上げてから金のアマルガムを塗り加熱すると、水銀のみが蒸発して表面に金が残る。
日本では古墳時代以来使われているメッキ法法で、「消鍍金(けしめっき)」などとよばれた。
代表例として、奈良東大寺の大仏の金メッキが挙げられる。 図は、山口潤一郎『図解入門 よくわかる最新元素の基本と仕組み―全113元素を完全網羅、徹底解説』秀和システム(0703)。
聖武天皇は、仏教の加護によって国家の安寧を図ろうとした。
そのシンボル事業が、大仏の造立といっていいだろう。
2009年6月21日 (日):聖武天皇と鎮護国家の思想
この大仏によって、聖武天皇の名前は中学生でもよく知っている。
しかし、その実像には謎が少なくない。
2008年7月 8日 (火):聖武天皇をめぐる謎
東大寺の大仏(廬舎那仏)は、(天平勝宝4)752年に造立された。
わが国最大の鋳仏である。
奈良時代の鋳金工芸の粋を結集したものとされる。
東京都鍍金工業組合のサイトにより、東大寺大仏のメッキの様子を見てみよう。
大仏の鋳造は,下から順々と仏体の周囲に築いた土手の上に設置した溶解炉から, 溶銅を流し込んで行くので,頭部まで鋳造の終った大仏は,その周囲を土山で囲われていた。
……
延暦僧録に「銅2万3,718斤11両(当時の1斥は180匁で675g),自勝宝2年正月まで7歳正月, 奉鋳加所用地」とあるように,この鋳かけ補修に5年近くの歳月と約16tの銅をついやした。
次に鋳凌いといって,鋳放しの表面を平滑にするため,ヤスリやタガネを用いて凹凸, とくに鋳型の境界からはみ出した地金(鋳張り)を削り落し,彫刻すべき所にはノミやタガネで彫刻し, さらにト石でみがき上げている,台座の蓮弁に残された有名な「蓮華蔵世界」の彫刻も, この時作られたものである。
鋳放しの表面をト石でみがき上げてから,この表面に塗金が行なわれたが, 大仏殿碑文に「以天平勝宝4年歳次壬辰3月14日始奉塗金」とあるように,鋳かけ, 鋳さらいなどの処理と併行して天平勝宝4年(752)3月から塗金が行なわれた。
これに用いた材料について延暦僧録には,「塗練金4,187両1分4銖,為滅金2万5,134両2分銖, 右具奉「塗御体如件」とあるが,これは金 4,187両を水銀に溶かし, アマルガムとしたもの2万5,334両を仏体に塗ったと回読している。
すなわち,金と水銀を1:5の比率で混合してアマルガムとし,これを塗って加熱し, 塗金を完了するのに5年の歳月を要している。
これは第1に,鋳放し表面を塗金できるまで平滑にすること, 第2に塗金後の加熱を十分慎重に行なわなければ,加熱時に発生する水銀の蒸気は非常に有毒なので, すでに751年,大仏殿の建造も終っている状況では,殿内は水銀蒸気が充満し, 作業者にとって非常に危険な状態だったのであろう。
大仏の鋳造は749年に完成し,その後に金メッキが行なわれ752年, 孝謙天皇の天平勝宝4年に大仏開眼供養会が行なわれた,大仏の金メッキは, この開眼供養の後になされたが,アマルガムによる金メッキが行なわれはじめたときから, 塗金の仕事をする人々にフシギな病気がはやりだした。この不思議な病気の原因は, まさに水銀中毒であった。
蒸発する水銀をすうことが中毒であると真相をつきとめた大仏師国中公麻呂は, 東大寺の良弁僧上とともに今日の毒ガスマスクを工夫して,病気の発生を予防したとのことである。
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