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2009年9月29日 (火)

枕詞と被枕詞/「同じ」と「違う」(10)

茜草指武良前野逝標野行野守者不見哉君之袖布流

藤村由加さん(たち)は、この歌の解釈をするに際し、“あかねさす”という枕詞の解釈から出発している。
「枕詞=被枕詞」というルールが、彼女(たち)の推論のエンジンである。
しかし、「枕詞=被枕詞」とは?

そんなことを教わった記憶はない。
多くの人が、高校などの古文の時間に、「枕詞」について学んだとき、何となく釈然としない思いを持っただろう。
枕詞の起源・役割などについて、どうも納得的な説明を受けたような思い出はない。

枕詞についてのイメージは、例えば、ハテナの説明のようなこんな感じだったのではなかろうか。
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CB%ED%BB%EC

和歌などで、特定の語の前に置かれて語調を整える語句。大抵の場合五拍である。
 ・ひさかたの→光
 ・たらちねの→母
 ・あをによし→奈良
 ・あしびきの→山
 ・ちはやぶる→神 等々。

しかし、これだけでは、枕詞と被枕詞との関係にどうにも必然性が感じられない。
アタマから覚えるしかないのか、という感じである。
しかし、原則的に31文字しかない和歌の世界で、5文字といえば相当の(約16%)のウェイトである。
語調を整える役割しか持っていないとすれば、ずいぶんもったいない話である。

「和歌入門附録 古典的修辞法」というサイトの「枕詞」の項を見てみよう。
http://www.asahi-net.or.jp/~SG2H-YMST/yamatouta/intro/syuuji.html

枕詞は特定の語の前に置くことが慣習化された語で、ふつう五音からなります(四音・三音もあり)。和歌の修辞法の一つですが、古い信仰心の名残のようにも感じられます。枕詞が冠せられる語を調べると、(ちはやぶる)神、(ひさかたの)光、(あしひきの)山、(たらちねの)母、(くさまくら)旅など、古代人が大切なもの、聖なるもの、あるいは非日常的なものとして、尊んだり畏れたりした物事が多いことに気づきます。枕詞は地名に掛かるものも多いのですが、地名とは古人にとって地霊を呼び起こす畏るべきことばでした。聖なるものへの畏敬の心――それゆえの距離感が枕詞を生んだ、とは言えないでしょうか。たやすく口にのぼせることを躊躇わせるような対象に対し、もってまわったような言い方をすることで、心理的負荷を払拭する詞――そんな、おまじないのようなものであったのではないか。本来、決して作歌上のテクニックのようなものでもなければ、一首をみそひと文字に収めるための埋め草でもなかったはずです。

そして、枕詞の類型について、以下のように分類・例示されている。
1 被枕と意味上の関係で結びつく枕詞
1-1 同格型
「庭つ鳥 鶏(かけ)」のように、被枕と同格の関係にある枕詞。
同じものを指す異なる語を重ねた形になる。同意語反復型。
ももしきの-大宮:「ももしき」は一説に「百石木」で、宮殿はたくさんの石や木で作ったものであることから。

1-2 比喩型
枕詞が被枕の喩えとなっている型。さらに分類すれば、換喩型・暗喩型・直喩型に分けらる。
●換喩型
しきしまの-大和:「しきしま(敷島、磯城島)」はかつて崇神天皇等の宮殿が置かれた、大和地方の中心地。ゆえに「しきしま」で「大和」全体を指す象徴となった。
●暗喩型
ぬばたまの-夜:夜の闇はぬばたま(ヒオウギの種子)のように黒いことから。
●直喩型
入り日なす-隠り:入り日のように隠れる、という直喩から。

1-3 転用型
敷衍拡大して用いるもの。例えば、本来「夜」などの枕詞であった「ぬばたまの」を、夢は夜見るものであることから「夢」の枕詞に転用している場合など。
ひさかたの-月:「ひさかたの」は本来「天」にかかる枕詞。それを天にある月の枕詞に転用した。

2 被枕と音韻上の関係で結びつく枕詞
「梓弓」と「春」、「柞葉」と「母」など、枕詞と被枕が、意味の上では関係がないにもかかわらず、音によって通じ合うゆえに結び付いたもの。
2-1 掛詞型
あずさゆみ-春:弓を「張る」ということから同音の「春」を導く。

2-2 同音反復型
松が根の-待つ:「松」「待つ」が同音

枕詞の現象論については、おおよそ上記のようなことだとして、本質論についてはどう考えるべきだろうか?

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