総選挙における「風」と「空気」
第45回総選挙の、民主党と自民党の当選者数と解散時における勢力は以下の通りであった。
解散時勢力 当選者
自民党 303 119
民主党 112 308
この結果をみれば、自民党と民主党の立場がそっくり入れ替わったとみなしていいだろう。
自民党が獲得していた議席は、「自民党をぶっ壊す」として登場した小泉純一郎元首相がしかけた郵政民営化総選挙によるものであった。
多分にバクチ的だったと小泉氏自身が語っているようだが、結果は歴史的な大勝利だった。
それが、1回の選挙でまったく逆転してしまったわけである。
前回も、今回も、「風がどう吹いたか」ということがいわれる。
前回、自民党を後押していた風が、今度は民主党を押す方向に吹いた……
自民党候補者は、一様に、ものすごい逆風に吹き飛ばされた、というようなことを言っている。
しかし、「風」はどうして生まれるのか?
単なる環境条件ではないだろう。
それぞれの党や政治家の活動の結果として生み出されるものだと思う。
あるいは、「風」を吹かせることができないような政治家は、力量不足だということではないのか。
一般的な用語として言うならば、「風」とは、「空気」の動きということだろう。
よく、「場の空気を読め」といわれる。
空気を読めない人をKY(空気読めない)といういわゆるKY語の話も余り聞かなくなった。
もっとも、麻生さんの場合は、「漢字読めない」の略でもあったのだが。
この「空気」に着目し、「空気」の支配力のよってきたるところを明確にしたのが山本七平氏だった。
2008年4月28日 (月):山本七平の『「空気」の研究』
文春文庫版の解説を担当している日下公人氏は、山本七平氏には4つの世界をもっている、という。
1.日本人および日本社会論の世界
『日本人とユダヤ人』山本書店(1970)に始まる。
『「空気」の研究』も、この系統の1つである。
2.日本陸軍物語
『私の中の日本軍』文藝春秋(1975)を代表とする世界。
山本氏は、昭和17年に青山学院を卒業と同時に陸軍に召集され、昭和19年5月に門司からフィリピンに送られた。
地獄の比島戦を生き抜き、昭和22年に帰国。
この戦争体験は、山本氏の論説の基盤になっている。
3.聖書の世界
山本氏は、ギリシャ語、ラテン語、ヘブライ語に通じ、戦争体験から、技術や戦法、地勢や気候にも通じるところとなって、『聖書の旅』文藝春秋(1981)などの著書を生み出した。
4.山本書店主の世界
山本書店は、ベストセラーになった『日本人とユダヤ人』の版元であるが、長く山本七平氏が1人で切り盛りする会社だった。
そのため、“世界最小の出版社”を自称していたが、上記のような事情もあって、日下氏が解説を書いている時点では、社員が2人になったそうである。
しかし、マイナーな出版社であることに変わりはない。
山本氏自身は、この4つの世界の中で、山本書店主であることを最も誇りとしていたということである。
さて、日本人が「空気」に抵抗できないのは、多神教だからだという。
太陽が照りつける砂漠に住む人々は、神に「髪の毛まで算えられている」という感覚になるのだという。
つまり、天から見られているという感じである。
それに対し、多雨で曇天続きの日本では、そういう感覚は育たない。
確かに、前回の郵政民営化総選挙も、今回の総選挙も、「空気」によって投票行動が左右された面があることは否定できないだろう。
小選挙区制という制度は、その空気の影響が極端に表れる傾向がある、ということだろう。
郵政民営化総選挙には、詐欺に類似した構造があったと考える。
2009年6月14日 (日):郵政民営化総選挙という“詐欺”
しかし、多くの国民は、そこから学習したものも少なくないのではなかろうか。
「風」が「空気」の動きであるとすれば、ユダヤ人のように、というのは馴染まないだろうが、その「空気」を自覚することが、KYから抜け出す第一条件のように思える。
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