八ツ場ダムの入札延期 その4.地域主権の実体化
今回の総選挙の論点の1つとして、地方分権のあり方があった。
民主党のマニフェストにも、「中央集権から、地域主権へ」という原則が明記されている。
原則としてはその通りであろう。
しかし、地域主権をどう現実化していくか、ということになると、途端に難問が発生する。
八ツ場ダムにしてから、地域のとらえ方をどう考えるかによって、賛否は逆転する。
経緯は別として、現時点で言うならば、水没地域の予定者の範囲でも、建設推進派が多数であろう。
下流の受益権の知事は、こぞって推進の必要性を主張している。
地域主権の立場にたった場合、八ツ場ダムの建設をどう考えるべきか?
同ダムの総事業費は、4600億円の予定とされ、既に3210億円が08年度までに支出されているという(日本経済新聞09年8月24日)。 写真をみれば、既に周辺の工事が相当に進捗していることが分かる。
入札延期となった本体工事などは、ダムの全体計画からすれば、最後の仕上げのようなものともいえるだろう。
これらの工事を推進するに際して、既に支出されているものには、下流都県の負担分もあるから、建設中止となった場合、その処理をどうするかも大問題だ。
また、予定されている4600億円で完了するのかどうか、という問題もある。
(写真は、http://news.goo.ne.jp/article/kyodo/nation/CO2009090301000456.html)
静岡空港などの場合、運営段階で発生する赤字を、どう負担するかということが問題になっているが、ダムにおいても当然運用コストは発生する。
開発利益は、当然全体のコストよりも大きいはずであるが(そうでなければ建設の論理が成り立たない)、その超過利益をどう配分するのか?
上記日経新聞には、「地域の争点」として、以下が取り上げられている。
1.群馬県の八ツ場ダム
2.岐阜県の徳山ダム導水路
3.北海道の新幹線延伸
4.長崎県の諫早湾干拓事業
いずれも複雑な事情を抱えた事業である。
共同通信の記事によれば、八ツ場ダムの場合「関係自治体に反対ゼロ」ということである。
民主党がマニフェストに「八ツ場ダムの建設中止」を盛り込んだことに対して、上田清司・埼玉県知事は8月5日に、民主党の鳩山由紀夫代表宛に八ツ場ダムの建設中止の見直しを要請した文書を郵送している。
それによると、「八ツ場ダムは水道水の確保と利根川の洪水調節の両面において必要不可欠なダムである」ことや「地元・長野原町などの関係自治体の声を聞くことなくマニフェストに記載された」ことを理由に建設続行を求めた。なかでも、八ツ場ダムの建設を中止した場合、「逆に支出が増える」と、事実誤認を指摘した。
八ツ場ダムの地元、長野原町や東吾妻町もダム建設には賛成だ。高山欣也・長野原町長や茂木伸一・東吾妻町長らも8月6日に、民主党に対して建設中止の撤回を要請した。
長野原町役場は「ダム建設に反対している町民はいない」とまでいう。総選挙での「民主圧勝」後のいまも、「建設推進の立場に変わりはありません」と言い切る。
一方で、反対派グループの「八ツ場あしたの会」は、ダム建設が地方の雇用創出などに役立つという考えに理解を示しながらも、「治水と利水の目的も社会情勢の変化で、すでに失っています。
他のダムをみても、経済効果は完成後の10年程度を経過すると地域が衰退した前例もあります。
公費は別の使い方があるはずです」(事務局)と反対の理由を説明する。
いずれにしろ、今までの経緯の中で、水没を前提にした地域住民は、既に多大な犠牲を払っている。
民主党は、ダム建設を中止した場合、「ダム事業の廃止等に伴う特定地域の振興に関する特別措置法(仮称)」をつくり、ダム建設を中止した場合の生活再建・地域振興を進めるとしているが、是非住民参加の固いで、生活再建・地域振興が実行されることを願う。
地域主権の実体がそこで試されるのではなかろうか?
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