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2009年8月 8日 (土)

「同じ」と「違い」の分かる男

全くの私事ということになるが、8月8日は、私の誕生日、ということになっている。
「ということになっている」というのは、別に疑問を抱いているという意味ではない。
ただ、自分の自覚的認識がない、ということで、これは、まあ誰でも同じことだろう。
特に具合が悪い箇所もなく、誕生日を迎えることができたわけで、有り難いことだと思う。

いまさら新たな覚悟、という年齢でもないが、やはり節目ということが意識される。
私という人間は、他の誰とも置き換えられない。
そういう観点から考えると、最近頻発する「被害者は、誰でも良かった……」などという通り魔的な事件などは、根本的に許せないと思う。
私たちは、それぞれが異なっているのであって、決して無差別な存在ではない。
それは固有名詞を持った、個別の存在である。
09年8月3日:固有名詞としての富士山と普通名詞としての富士山

その個別性の違いを認識できるかどうか?
私たちは、興味・関心のあることについては、「違いが分かる」。
クルマの車種など、新たに購入を検討していたり、購入した直後などに敏感になることは、多くの人が経験することだろう。
サル山のサルを見ても、普通は余り識別がつかない。
しかし、今西錦司さんに率いられた京都大学の霊長類研究グループは、サルの個体識別を行い、それによって、サルの群れの社会学的研究が可能になった。

インスタント・コーヒーのCMで、「違いの分かる男の○○」というものがあった。
ネスカフェのゴールド・ブレンドという銘柄で、従来のインスタント・コーヒーとは一線を画したものである、という差別化を訴求したものだった。
映画監督の松山善三さん、作曲家の黛敏郎さん、作家の遠藤周作さんなどが起用されて、確かに違いが分かりそうな人たちであることがミソだった。
しかし、本当に違いが分かるならば、インスタントで良しとするかどうか、などということは余計なことだろう。

「違いが分かる」ということは、認識するということそのものだと思う。
どの属性に注目するかによって、「違い」は違ってくる。
彼のクルマは、5人が定員のハイブリッド車である。
私の乗っているクルマは、5人が定員のガソリン車である。

彼のクルマと私のクルマは、クルマという括りで考えれば「同じ」である。
それは、自転車とは「違う」し、電車とも「違う」
また、5人が定員ということでも「同じ」であって、8人定員のクルマとは「違う」。
しかし、ハイブリッド車とガソリン車という点においては「違う」。
当たり前のことであるが、「同じ」とみるか、「違う」とみるかは、ものの見方・考え方次第ということである。

だから、AとBという2つの事象について、それを「同じ」とみる見方もあれば、「違う」とみる見方もあり得るということである。
自民党と公明党は、明らかに異なる理念の政党である。
しかし、連立を組んで政権を担っている限り、与党という括りでは「同じ」政党ということになる。

創造性開発の基本的な技法に、シネクティクスという方法論がある。
基本的な考えは、「異なった関連なさそうな要素を結びつける」というところにある。
アナロジー(類比・類推)をベースに発想するということで、多くの創造性開発技法の基礎となる考え方といっていい。

シネクティクスでは、新しいものを生み出すには、次の2つの思考が重要である、とされる。
①異質馴化(making the strange familiar)
②馴質異化(making the familiar strange)
異質馴化とは,自分には全く未知のもの(領域)のことをヒントに自分の問題解決を着想することであり、馴質異化とは,既知のものを,新しい視点から見ることで新しい着想をえることである、といわれる。

つまり、自分がいま解決しようとしている問題について、その領域の中でだけ考えていても行き詰ってしまい、解決策が見いだせないということがある。
その解決策が、別のジャンルの事象を参照することによってヒントが得られるということがある。
例えば、貨幣の流通の問題を、電気の伝導の問題とのアナロジーで考えたら、解決のヒントが得られた、などということである。
つまり、モデル化ということである。

重要なことは、「同じ」とみる見方と「違う」とみる見方を柔軟に行き来することである。
「同じ」としか見えない、あるいは「違う」としか見えないというのは、固定観念に縛られているということである。
固定観念を切るというのは難しい課題であるが、柔らかいアタマというのは、異質馴化、馴質異化に秀でているということだろう。
そういうわけで、「同じ」と「違い」の分かる男になりたいと思うのである。

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