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2009年7月11日 (土)

公害を事前防止する論理としての「汚悪水論」/因果関係論(1)

水俣病の救済の特措法が成立したが、救済への道のりは余りに遠かったというべきだろう。
しかも、現時点でも全面的な解決というわけではない。
その間、因果関係の筋道をめぐって、あるいは責任の所在をめぐって、さまざまな議論が行われてきた。
重要なことは、二度とこのような悲劇を起こさないことであり、そのためには結果として発生してしまったとしても、それを事前に防ぐ方策が無かったのかどうかを考える、ということだろう。

水俣病の裁判で、チッソは、水俣病の発生は事前に予見できるものではなかったと主張した。
加藤邦興『日本公害論』青木書店(7704)は、このチッソの主張が成り立たないこと、言い換えれば、「水俣病の発生以前に、水俣病発生の条件を取り除くことが合法則的に可能であった」ことの検証を行った書である。
加藤さんは、技術史・技術論を専門とする研究者で、東京工業大学の出身である。
大阪市立大学の教授を務めていたが、2004年に60歳の若さで亡くなられた。
加藤さんが東京工大の助手の頃、直接話をさせて頂いたことがある。
もう40年近くも前のことで、加藤さんもまだ20代だったと思うが、技術論における労働手段体系説(=日本共産党系)の人らしからぬ(?)実に柔軟な思考をする人だという印象が残っている。

上掲書により、チッソの主張を概観してみよう。

(化学企業が)高度の注意義務を尽くしてもなお、排水中に、海水で希釈拡散されるにかかわらず人の生命、身体を害する如き原因物質の存在することを予測できない場合には、これを一般に化学工業界で行われている相当な処理を行った上で、海水中に放出することはやむをえないものである。

この主張自体は、化学企業に籍を置いたことのある人間としては、同感できるものがあることは否定できない。
まさか、こんなことになるとは、全く想定していなかったことである……。

チッソの言い分を表現を変えれば、患者が発生しない限り、危険性を予知できないということである。
しかし、それを乗り越えなければ、同じような公害が繰り返されることになりかねない。

それでは、事前防止のために、どういう視点を持つことが可能だろうか?
加藤さんは、水俣病訴訟における原告弁護団の主張にそれをみる。

水俣病は被告チッソ水俣工場によって引きおこされた巨大な環境汚染による自然および人間社会破壊の問題としてとらえなければならないものであり、被告チッソが地域を支配することによって不知火海一円、地域社会ぐるみ破壊されてしまったことが、その本質なのである。

この主張の意味することは何か?
人体被害としての水俣病は、被害の頂点であり、頂点を支える底辺として、多様な地域ぐるみの人間と環境の収奪があった、ということである。
つまり、頂点の前兆として、底辺があったという認識である。
ある日突然に、人体被害が発生したというわけではない。
その前に、ネコが発症し、さらにその前に、鳥が異常を来たし、魚が死に、貝類が死滅しているという事実があるのである。

加藤さんは、水俣病事前防止の論理として、原告弁護団による「汚悪水論」を示す。
「汚悪水論」とは何か?
私たちは、「水俣病の原因物質は?」という質問に対して、メチル水銀と答える知識を持っている。
しかし、そういう認識が本当に正しいのか?

水俣病の中心的な症状は、メチル水銀によって引きおこされた、というのは間違いではない。
しかし、チッソによってもたらされた被害は、メチル水銀によるものと限定してしまうと、不十分なものとなる可能性がある。
チッソの工場廃液は多様な有害物質を含んだものであり、被害の総体は、メチル水銀に限定することなく、総体としての汚悪水を原因物質として理解することにより把握できる。

それは、人体被害がなければ被害を認識できない、ということではない。
人体被害は、環境全体への破壊的影響の頂点に位置しているということである。
そういう目で、環境の異変を、人体被害の前兆としてとらえるという見方によって、少なくとも人体被害の発生を局限することが可能になるという理路である。

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