カタリの諸相
刑法では、詐欺について次のように規定している。
第246条 人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
つまり、人を欺くことが要件である。
「欺く」という言葉を辞書で確認してみよう。
あざむく 【欺く】
(動カ五[四])
補足説明「浅向く」の転か
(1)相手を信頼させておいてだます。
・「人を―・く」
・「人目を―・く」
(2)(「…をあざむく」の形で)…とまちがえさせる。
・「花を―・く美人」
・「昼を―・くばかりの明るさ」
(3)あたりかまわず口にする。
・「月にあざけり、風に―・くことたえず/後拾遺(序)」
(4)相手を恐れず、接する。
・「大敵を見ては―・き、小敵を見ては侮らざる/太平記 16」
(5)ないがしろにする。いいかげんに扱う。
・「是を見ん人拙き語を―・かずして法義を悟り/沙石(序)」
・可能動詞 あざむける
・[慣用] 昼を―・雪を―
いずれも相手のある行為のようである。
似たような言葉として、「騙る」がある。
かたる 【騙る】
(動ラ五[四])
・補足説明「語る」と同源
(1)だまして人の金品を取る。
・「金を―・る」
(2)身分・地位・名前などを偽る。詐称する。
三島市にある三嶋大社で、「古典講座」が開催されている。
月に1度の開講で、2回のお休みがあるので、年間10回の講座である。
国学院大学教授の菊地義裕さんが講師で、「万葉集」の解説が行われている。
私も、三嶋大社に立ち寄った時に、このような講座があることを知り、3年前から受講している。
千葉県や愛知県からも受講している人がいるらしい。
菊地先生の解説はまさに名調子という感じで、飽きさせない。
7月12日の講座で、「カタリの諸相」という言葉が出てきた。
テキストとして櫻井満監修『万葉集を知る事典 』東京堂出版(4版:0407)が使われている。
カタリとは、カタ(型)やコト(事)とかかわる語で、主に神話や伝説など、共同体が忘れてはならない事柄やひとまとまりの発話行為をいう。他人をだましたり、詐欺をする行為をあらわす「騙り」ともかかわって、聞き手の魂にカタリ技法によってはたらきかけ、同一の感情を抱かせる機能をもっている。
カタリという行為の起源は、神々や精霊・死霊などの語り手への憑依(神がかり)にあったとみられている。語り手は、そうした特別な能力や資格を持つ者であり、音楽や舞をともなって由緒ある語りを行った。
上記の辞書で、「騙る」と「語る」が同源、という説明の意味は、以上の通りである。
菊地先生の講義では、ウタ((人の感情を)ウツと同源)は韻文に、カタリは散文に発展していった。
詐欺行為において、「カタリによって、聞き手に同一の感情を抱かせる機能」や「音楽や舞」などの演出が重要なことが納得できる気がする。
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