重層する感動と影の立役者
バン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝した辻井伸行さんから受けた感動については既に記した。
09年6月11日の項:自動車会社の社会的貢献
辻井さんの快挙を伝えるTVで、辻井さんを指導している横山幸雄さんという人がいることを知った。
しかし、横山さんが、どういう人なのか、多くの人にとっては未知の人なのではないだろうか。
産経新聞(090628)に、横山さんのプロフィールが、やや詳しく紹介されていた。
横山さんは、もちろん「単なるピアノの先生」なのではない。
1990年にショパン国際ピアノコンクールで3位に入賞し、世界を舞台に活躍するピアニストである。
辻井さんが中学生のときに、東京都内の喫茶店で、辻井さんにレッスンをつけたのが初めての出会いだった。
そのときの辻井さんは、「高い能力はあったが、音楽家としての才能が突出しているという感じではなかった」という。
なんと、コンクールで通用すると感じたのは昨年になってから、らしい。
コンクール出場を決めた今年の4月からは、それまで週1回だったレッスンを、週2回に増やした。
それからの辻井さんは、どんどん上達した。
渡米の1週間前には、レッスンはほぼ毎日になった。
ファイナルを控えた6月上旬には、自分のリサイタルを間近に控えながら、24時間足らずの滞在時間の渡米を決行し、深夜と朝に十数時間のレッスンを行った。
TVで辻井さんが「炎のレッスン」と表現していたレッスンである。
電話では細かいことが言えないので、現地でレッスンする必要があったということである。
辻井さんの才能はもちろん素晴らしいものであるが、この師があってこその辻井さんだったのだろう。
辻井さんは点字楽譜を使わずに、右手だけの音、左手だけの音などを録音した“耳で聞く楽譜”を使っており、その楽譜は、横山さんと生徒2、3人のチームワークで制作する。
辻井さんの能力を信じ、惚れ込んだチームなのだろう。
辻井さんの快挙の陰に、こういう人たちのサポートがあったということは、また新たな感動をもたらす。
横山さんのオフィシャル・サイトを覗いてみた。
http://yokoyamayukio.net/index2.htm
1990年のショパン国際ピアノコンクールでは、1位は該当者なしだったらしい。
今までにウィーン室内管弦楽団、ベルリン交響楽団、サンクトペテルブルグ・フィルハーモニー交響楽団、ブダペスト祝祭管弦楽団、エーテボリ交響楽団を含む国内外のオーケストラと共演し、絶賛を博す。プラハの春音楽祭、ヤナーチェックの5月の音楽祭、クフモ室内楽音楽祭、トゥレーヌ音楽祭等の海外の音楽祭への出演、またニューヨーク/カーネギーのリサイタルホール・デビューをも果たしている。01年にはサンクトペテルブルグにて同フィルハーモニー交響楽団との共演、またリサイタルデビューを果たし、絶大な喝采を浴びる。 最近では作曲も手がけている。
…
また、執筆活動も続けており、「ワインの練習(エチュード)」他エッセイや自ら監修した楽譜なども発売されている。ワイン好きが高じて、日本ソムリエ協会認定のワイン・エキスパートのライセンス保持者でもある。
決して影の人ではない。
実に多彩な才能を持った人であることが伝わってくる。
こういう人が、辻井さんの才能を導き出した。
辻井さんの今後の活躍を期待すると共に、横山さんのさらなる活躍を祈念したい。
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