大型詐欺の事例(4)M資金
山崎和邦『詐欺師と虚業家の華麗な稼ぎ方 人はこうして騙される』中経出版(0511)も、「M資金」を扱っている。
山崎氏は、「地下資金」とか「アングラマネー」と呼ばれるものは、正確には、「unrecorded money=記録されざる金」のことである、という。
つまりは「簿外」であり、ダブルスタンダードということであって、それが詐欺事件の温床になっている構図については既に触れた(09年4月26日の項)。
そして、ほとんどの国で、GDPの20~30%の金が地下経済に潜んでいる、とする。
日本は最も少ないといわれるが、それでも13~14%くらいはいくだろう、ということである。
つまり、日本では表に出てこない資金が、総額70兆円ぐらいある、というのが通説だ、という。
しかし、そもそも「記録されざる」ものを、どう推測するのだろうか?
それはともかくとして、M資金の話には、一部に歴史的事実があることが、社会的地位のある人が引っかかる1つの原因である、と山崎氏は指摘する。
社会的地位の高いM資金の被害者は、詐欺に引っかかったことが明るみ出ると、自分の名誉にかかわることなので、極力隠そうとする。
したがって、新聞ダネになるM資金話は、氷山の一角と考えられる。
山崎氏は、「某大手航空会社社長」「某自動車メーカーの役員」「某大手化学品メーカーの社長」などの例を挙げている。
山崎氏は、M資金の源流として、以下の3つを挙げている。
1.GHQが残した対共産圏防衛機密費
日本の地政学的条件や、知識階層の動向等を踏まえ、GHQが引揚げるとき、当時の吉田首相に、巨額の資金を対共産圏防衛機密費として残していった、とするもの。
この大量の資金は、機密費扱いにせよ、とされた。
なぜならば、日本国憲法は思想の自由を保障しているから、共産主義諸国を仮想敵とすることは具合が悪い。GHQの経済科学局長マーカット少将の名を冠して、コード名「M資金」が残された。
共産主義の脅威が薄れてくると、この資金を、日本の産業育成に使うべし、ということになった。
しかし、今更公然化するわけにはいかない。
というような話をすると、特段の挫折体験もなく、周りに苦言を呈してくれる人もいなくなった裸の王様の権力者が、案外簡単に騙されてしまう、というのである。
2.戦時中の民間から供出させた貴金属・宝石類
日本政府が、第二次大戦中に、民間から貴金属および宝石類の供出を受けたのは、歴史的な事実である。
その貴金属・宝石類が、戦争終焉間際の混乱に紛れて、日本銀行の地下金庫に保管されたまま、終戦となった。
1982年9月に公開された「外務省外交文書」によると、これらの貴金属類等は、連合軍に無償で接収された。
講和条約締結後、大蔵省・日銀はこれを処分して現金として保管することになったが、戦時中に供出させた民間の財産が、眠ったままであったという発表はできない。
そこで、この大量の資金が、正式統計の外、国家予算外の資金となって保管され続けた、とするもの。
その総額は、当時の金額で2億5000万ドル(当時の為替レートで900億円)である、と外務省文書に記されている。
その中には、下記が含まれているとされる。
a 戦時中に民間が供出したものが大蔵省や日銀などの機関に移されたもの
b 民間企業が工業用に在庫していた物資
c 日本陸海軍がタイやインドシナなどの占領地から略奪してきた物資
3.国債利子還付金
戦後のどさくさに紛れて、GHQの指示で国有地の払い下げをほとんど無償で受けた政治家がいる。
それを売却したところ、3兆円になったが、その政治家はその金を国家に供託して、国債という形で受け取った。
その国債の利息だけで、年に1180億円になる。
その1年分を融資するが、その還付金手数料として、1%(12億円)を用意することが条件である。
その手付金として、10%(1億2000万円)を用意してもらいたい、というのがストーリーである。
実際に、この話で手付金をせしめたグループがあり、その総額は50億~70億円に達するといわれている。
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