実業の思想(3)資本主義の精神
明治時代の初期には、官尊民卑の風潮が強かったが、これに対して、商工業者の地位を向上させることが、国家の発展にとって重要だ、という考え方が出てくる。
儒教的な武士道精神に対する、「実学の思想」である。
その代表格が渋沢栄一ということになる。
渋沢栄一とは、以下のような人物だった(Wikipedia/09年5月6日最終更新)。
渋沢 栄一(しぶさわ えいいち、天保11年2月13日(1840年3月16日) -昭和6年(1931年11月11日)は、幕末の幕臣、明治~大正初期の大蔵官僚、実業家。第一国立銀行や王子製紙・日本郵船・東京証券取引所などといった多種多様の企業の設立・経営に関わり、日本資本主義の父と呼ばれる。
主君の慶喜が将軍となったのに伴い、幕臣となり、パリで行われる万国博覧会に将軍の名代として出席する慶喜の弟徳川昭武の随員として、フランスを訪れる。パリ万博を視察したほか、ヨーロッパ各国を訪問する昭武に随行する。
パリ万博とヨーロッパ各国訪問を終えた後、昭武はパリに留学するものの、大政奉還に伴い、慶応3年(1867年)に新政府から帰国を命じられ、12月に帰国した。
帰国後は静岡に謹慎していた慶喜と面会し、静岡藩に出仕することを命じられる。しかし、フランスで学んだ株式会社制度を実践するため、仕官を断り慶応4年(1868年)1月に静岡にて商法会所を設立するが、大熊重信に説得され、10月に大蔵省に入省する。大蔵官僚として民部省改正掛(当時、民部省と大蔵省は事実上統合されていた)を率いて改革案の企画立案を行ったり、度量衡の制定や国立銀行条例制定に携わる。しかし、予算編成を巡って、大久保利通や大隈重信と対立し、明治6年(1873年)に井上馨と共に退官した。
退官後間もなく、官僚時代に設立を指導していた第一国立銀行(現:みずほ銀行)の頭取に就任し、以後は実業界に身を置く。また、第一国立銀行だけでなく、七十七国立銀行など多くの地方銀行設立を指導した。
第一国立銀行のほか、東京ガス、東京海上火災保健、王子製紙、秩父セメント(現太平洋セメント)、帝国ホテル、秩父鉄道、京阪電気鉄道、東京証券取引所、キリンビール、サッポロビールなど、多種多様の企業の設立に関わり、その数は500以上とされている。
まさに、日本の近代化のエンジンとなった人物と言えるだろう。
渋沢は、「片手に論語、片手にソロバン」「道徳経済合一」「利を見ては義を思う」などの言葉によって、商工業者の地位の向上を図った。
渋沢栄一の実業思想は、山崎和邦『詐欺師と虚業家の華麗な稼ぎ方 人はこうして騙される』中経出版(0511)では、以下のように整理されている。
①道義に則った方法で事業を遂行すること
②社会に貢献することによって利益を得ること
③したがって権力に媚びる必要がないこと
④かくて商工業の地位を高めること
利潤の追求に関して、パラダイムの転換をもたらしたのは、マックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 』だった。
鈴木正三や石田梅岩の肯定した利潤は、仏教的良識による、分に応じた取り分であった。
これに対して、マックス・ウェーバーの資本主義ビジネス観は、最大利潤の追求を肯定するものであった。
つまり、分に応じた額ではなく、無限の額を求めるものである。
最大利潤の追求のために必要なことは何か?
怠惰や放漫を退けて身を律し、目的に向かって必要ならば禁欲もして、己の行動を合目的的に組織化していくことである。
私益の追求が、見えざる手に導かれて公益の実現につながる。
あくなき利潤の追求は、資本主義の発展の原動力であり、近代国家の充実に資するものである。
つまり、利潤の追求という行為に関して、マイナス評価の否定から、積極的な肯定への転換である。
言い換えれば、利潤追求は、職業人の倫理的義務なのである。
マックス・ウェーバー以前には、商業が発達して営利行為が是認され、資本が蓄積されて生産技術が進歩し、それによって産業が発展して、近代資本主義が発生した、と考えられていた。
しかし、古代ギリシャ、カルタゴ、インド、中国、オリエントなどでは、商業も資本蓄積も技術も高度に発達したにもかかわらず、近代資本主義が誕生しなかった。
それは何故か?
資本主義の精神が発達していなかったからである。
近代資本主義は、誕生して100年足らずで、それ以前の人類の歴史が蓄積してきた富を凌駕する富を作り出した。
その根本動因を、資本主義の「精神」であると、マックス・ウェーバーは見るのである。
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