虚業の類型(3)健全な競争に反する強者の論理
山崎和邦氏は、『詐欺師と虚業家の華麗な稼ぎ方 人はこうして騙される』中経出版(0511)において、虚業の第三類型として、「経済力の集中と『強者の論理』を度を超えて図るケース」をあげている。
強大な企業が、財力によって、一般的な社会通念を超えて、経済・産業システムの操作を行う場合である。
産業全体の能率を犠牲にした私利獲得を目的としていることが顕著な場合ということになる。
山崎氏の規定では、会社の利益が、産業能率の向上や生産性向上によるのではなく、独占化を図るなど、産業システムの撹乱によってもたらされるとすれば、それは虚業である。
それによって得られる利益は、社会の利益と反するものであるからである。
経済力の過度の集中は、他企業の生産性を抑制する。
独占禁止法が成立した背景には、このような考え方があった。
ロックフェラー・グループは、トラストという企業支配の方式を生み出して、スタンダード・オイルを統合した。
これが社会的に大きな問題視され、アンチ・トラスト・ロー=独占禁止法が成立した。
独占が違法行為であるとされたのである。
独占禁止法は、以下のように解説されている(Wikipedia/09年5月10日最終更新)。
2007年現在100以上の世界各国で独占禁止に関する法が制定されている。2000年頃には30カ国であったので隔世の感がある。世界の政治経済体制を支える経済憲法としてほぼ共通の認識となったといえる。
独占禁止法の大きな源泉はアメリカのシャーマン法と、クレイトン法である。ただし、エリザベス1世の時代の独占的特許とそれによる独占の弊害に対してクック判事が出した独占に関する法令(the act of monopoly)が最初の法であるとされている。
多くは資本主義国家において制定されている例が多いが、中華人民共和国においても2007年8月1日に制定されたように市場があるところには独占禁止法がありうるということがいえる。
市場経済においていかなる規則が必要かという経済の法を定めるものである。経済の憲法という意味で経済憲法と呼ばれてもいる。企業の基本的人権、経済の刑法という意味でもある。各国の独占の定義、合併の定義、域外適用の定義などは様々であるが、様々な行為類型が違法であると定められている。世界的な経済活動が対象となるために、世界的な法の調整が必要であるが、主要な法源はEU法、アメリカのシャーマン法とクレイトン法である。
ジョン・D・ロックフェラーは、1863年にオハイオ州で石油精製業スタンダード・オイルを創業した。
1870年には、ロックフェラー・グループを形成して、鉄道会社に介入し、運賃割引を実現して、競争優位性を確立した。
その優位性を生かして、同業者の統合(水平的統合)に乗り出し、1879年には、石油精製業の90%以上を支配下に入れることになった。
さらに、垂直的統合を目指して、石油販売店の統合に着手し、84年には、全国的な販売店網を支配するようになった。
その結果として、スタンダード・オイルの価格政策が市場を支配することになった。
スタンダード・オイルは、生産と配給のコントロールによって巨利を実現したが、それは公共の利益に反するもので、実業思想に背反するものだった。
このような状況に対し、1890年にシャーマン法(Sherman Act)が、1914年にクレイトン法(Clayton Act)が制定されて、健全で公正な競争状態を維持することが図られた。
石油という重要な物資を生産し、販売をしていたのであるから、実業のように思えるが、社会的公正に反するビジネスモデルは、虚業と位置づけられざるを得なかったということになる。
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