大型詐欺の事例(1)不動産等の利回り保証
山崎和邦『詐欺師と虚業家の華麗な稼ぎ方 人はこうして騙される』中経出版(0511)には、山崎氏が「大型詐欺」と位置づける事例がいくつか取り上げられている。
その第一は、不動産の利回りを保証する、というものである。
不動産は扱う金額も大きいので、不動産詐欺には、トリビアルなものから手の込んだものまで、詐欺の対象となる事例に事欠かない。
幼稚な例として挙げられているものの1つが「原野商法」と呼ばれるものである。
この手の詐欺師は、その筋では「国定師」といわれるらしい。国定は、赤城山に立て篭もった国定忠治の国定で、赤城山の山奥のような場所を、住宅地や別荘地として販売するものである。
案内書には、「調整区域」であることが明記されている。しかし、大概は、目立たないように書かれている。
そして、そう明記されていて、「現状有姿」つまり現在の状態のままで販売するとも書かれているから、詐欺にはならない。
山崎氏の紹介する詐欺は、形を変えた不動産詐欺とでもいうべきもので、その1つが、有料老人ホームにかかわるものである。
有料老人ホームに投資することによって、安全確実な資産運用ができる、というのがウリで、年5.7%の配当を保証し、しかも元本保証である。
社会的意義もある。
こうした説明で富裕層からお金を集め、何もしないで休眠状態になっているファンドがある。
上掲書には、キャピタルインベストメントジャパン(CI社)という社名と、元北海道・沖縄開発庁懲戒稲垣實男という名前が載っている。
稲垣氏は、橋本龍太郎内閣のときに閣僚を務めたが、2000年に落選し、2002年にCI社の社長に就任、05年1月に辞任している。
投資を勧誘するパンフレットに、稲垣氏が写真入りで載っていたという。
このパンフレットをみて、元大臣が載っているから信用できると思う人もいるだろう。
しかし、山崎氏は、政治家や著名人、俳優などの名前を使ったり、写真を載せたりするような投資勧誘は、それだけで信用を半減させて考えるべきだ、という。
高率の配当がどのようなビジネスモデルで可能になるのか、その説明も明示すべきだということである。
そういう情報なしに信用するとすれば、信用した方にも問題がある。
山崎氏は、この事業は、最初から詐欺の意図はなかったのではないか、と推測している。
当初はうまくいくだろうと思って始めた事業が、結果として失敗して出資者に被害を与えることになった。
この場合には、詐欺罪は成立しない。
事業(企画)の失敗であり、投資家の失敗ではあるが、CI社の計画が最初から失敗を前提として構想されていたのでない限り、詐欺罪には該当しない、ということになる。
ただし、勧誘の仕方によっては、出資法違反に問われる可能性はある。
和牛預託商法というのも似たような類型といえるだろう。
Wikipedia(09年1月9日最終更新)では、以下のように説明されている。
和牛預託商法(わぎゅうよたくしょうほう)は、和牛の飼育事業に出資を募った上で、約束した配当を行わないという詐欺商法の一つで、現物まがい商法の一種である。
元々は、生産農家や協同組合などが和牛飼育に出資を呼びかけるもので、「一頭の和牛子牛に数人が共同して出資し、牛が売れたらお礼程度の牛肉を配当する」ものであった。数万円程度の出資で高級牛肉を購入するに等しく、この程度の投資呼びかけは現在でも続いているが、和牛預託商法は、これとは一線を画する。具体的には、「高額で売買される和牛子牛の飼育に出資すれば、成牛になったとき多額のリターンが望める」という触れ込みで、出資者から金を集める詐欺商法で、出資法に触れるような高利回りを謳ったものも少なくなかった。
牛一頭を数人で共同出資するなどと小規模なものではなく、実際の牛とはかけ離れて投資金額の額面と利回りだけが一人歩きしている特徴がある。実際には飼育していない和牛を多数飼育していると称して出資者から金を集め、配当せずに出資金を詐取することが多く社会問題になった。
1996年-1997年が事件被害のピークで、「特定商品等の預託等取引契約に関する法律」の特定商品に家畜が追加され規制されることになった。
法規制もあり最盛期には17社あった和牛預託商法の企業は出資者からの返金要請に応じて次々に破綻し、軽井沢ファミリー千紫牧場とジェイファームの2社の元社長が出資法違反と詐欺により逮捕・起訴されるなどして、同商法の被害は一旦収まった。
和牛預託商法はいくつかの牧場・協同組合で行われ、被害が発生したが、詐欺罪に問うのは難しいとされ、出資法違反で起訴された案件が多い。
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