詐欺の類型(2)未上場株の譲渡
金融庁のサイトには、次のような注意が記されている。
最近、新規公開株の人気上昇に伴い、金融庁の金融サービス利用者相談室等において、 「上場間近」、「値上がり確実」、「発行会社との強いコネにより入手」、「貴方だけに特別に譲渡します」などと称して未公開株の購入を勧められ、購入した ものの、「発行会社に問い合わせると上場の予定はないと言われた」、「株券が届かない」といった相談が増えています。
つまり、未公開株をテーマにした詐欺に気をつけてください、ということである。
一般に、株式の新規公開(IPO)時には、株価は何倍にも値上がりする。
情報化が進んで、そういうことを多くの人が知るようになった。
そこに詐欺師の付け入る隙間ができる。
長岡哲生『極秘資金』講談社(0801)にも、未公開株譲渡の詐欺事件が扱われていることは、既に紹介した(09年2月5日の項)。
未公開株譲渡詐欺でよくあるパターンには、以下のような例がある。
http://www9.atwiki.jp/kabutempra/pages/51.html
・儲かる未公開株の電話勧誘がありました
・聞いたことのある有名な会社がもうすぐ上場するので買わないかと電話
・先輩の会社が上場するそうで、一口乗らないかと言われました
・彼氏の会社が・友達の会社が上場するので買いたいです
・未公開株に投資する夢のあるファンド
・外国(ベトナム・インドなど)の未公開株に投資するファンド
しかし、考えてみれば、確実に儲かるような株を電話勧誘などするはずがない。
そういう話に乗る方が問題ではあるが、セールスをしている側の人間は、本当に儲かるものと思っているケースもある。
つまり、セールスマン自体が無知なのだが、本人は本当に儲かると思っているのだ。
比較的最近の事例として、以下のような相談をしている例があった(相談の日付は、09年2月21日)。
http://soudan1.biglobe.ne.jp/qa4736441.html
先日、必ず儲かると言われ「株式会社H4O」という会社の未公開株を勧められ購入しました。この会社の話では近いうちにジャスダック市場に上場する事が決まったということです。最近になって、本当に上場するのか?と疑問が湧いてきています。上場するといわれて買った未公開株ですが上場しなかった場合にはどのように対応すればいいのでしょうか?買った値段で発行会社が買い取ってくれるのでしょうか?ご教示願います。
これに対し、H4O社のサイトでは、以下のように説明している(説明の日付は、09年3月10日)。
拝啓 春分の候、ますます御健勝のこととお慶び申し上げます。
平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
弊社株式について弊社株式を「所持している。」または、「入手することができる。」等の勧誘にて株式の譲渡を行わずして金銭を搾取する被害が出ております。
弊社株式の「譲渡」、「譲受」に関しましては・・・・
1. 取締役会の譲渡承認を必要とします。
2. 株式の譲渡先を把握するため、かならず、弊社が介入させていただいております。
3. 譲渡代金の受渡に関しては弊社を窓口とさせていただいております。
以上について、明確に説明のなき勧誘を受けた場合は弊社までご連絡いただけますようお願い申し上げます。
敬具
株式会社H4O公開準備室
山崎和邦氏は、『詐欺師と虚業家の華麗な稼ぎ方 人はこうして騙される』中経出版(0511)において、未公開株の譲渡のセールスを受けたら、次のような質問をする、としている。
①主幹事証券はどこか?
②類似会社比準方式の類似会社はどこで、その試算価格はいくらか?
③ディスカウント・キャッシュフロー法による株主価値はいくらか? 1株当たり株主価値はいくらか?
④直近3年間のバランスシートと損益計算書は?
⑤直近の有価証券報告書は?
株式の発行会社と縁のない人間に、未公開株を譲渡するような話はあり得ないと考えるべきだろう。
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