ビッグ・コンマンの条件
詐欺師のことをコンマンというらしい(山崎和邦『詐欺師と虚業家の華麗な稼ぎ方 人はこうして騙される』中経出版(0511))。
コンは、コンフィデンス(信用)の意味で、それをゲームとして楽しむ男である。
山崎氏は、次のように定義している。
暴力や脅迫は一切用いず、知力だけを使って、カモのほうから喜んで札束を差し出したくなるように仕組む犯罪者
いつまで経っても絶えない「振り込め詐欺」などの小口の詐欺師は、ショート・コンマンである。
彼らは世間に隠れてコソコソ生きる場合が多い。
これに対し大型詐欺師(ビッグ・コンマン)は、全く異なる生活様式を持っている。
彼らはコソコソ生きるのではない。
普通の人よりも優雅で端正で礼儀正しい。
日頃から細かな事実について、正確な描写を積み上げる。
一流ホテルのメイン・レストランの名前、そこの支配人の名前、そのフロア階数など、細かい情報についてきわめて正確である。
つまり、そういう細部の真実性によって、話の全体の信憑性を高め、虚構を信じ込ませるのである。
山崎氏の挙げている話法を紹介してみよう。
ある人のスピーチが非常に冗長であることを評して、彼らはこんなふうにいう。
「モーゼの十戒は二九七語で、リンカーンのゲティスバーグ・スピーチは二六六語だった。アメリカの独立宣言は三○○語だし、般若心経は二六二文字だ。だいたい重要な意味をもつ内容というものは、三○○語内外のものではないだろうか。彼のスピーチの原稿はなんと四○○○語以上ある。」
手形・小切手を駆使した信用詐欺を白詐欺(白鷺)、暴力装置や脅迫を匂わせて遂行する詐欺を黒詐欺、結婚詐欺などを赤詐欺という。
白詐欺は、業界では黒詐欺、赤詐欺に比べ、高級・知的とされ尊敬の眼で見られるという。
世には著名な白詐欺師もいるが、それは本当の一流の詐欺師ではないらしい。
超一流の詐欺師は、生涯噂にもならず、悪名も出ず、普通の紳士として優雅に暮らす。派手さはなく、世間的に目立たないように、迷彩をまとっている。
彼らの信条は、「法律に明らかに触れることをやる奴はバカで、放棄に絶対に触れないことばかりやっていても、大儲けはできない。虚実皮膜の間に動く」。
かつて、安部譲二さんが『塀の中の懲りない面々』文藝春秋(8608)というベストセラーを書いたが、塀の上を口笛吹きながら歩いて、絶対に中に落ちないのが一流だという。
ビッグ・コンマンは、念入りに準備されたストーリーを練り上げ、それをカモに信じ込ませるための詳細なデータを作り上げ、場合によっては念入りに準備された架空の設備(証券会社、外国大使館など)を用いる。
詐欺師の世界も、なかなか大変である。
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