詐欺の第二段階としての瑕疵ある意思決定
詐欺の第二段階は、カモが誘導された錯覚に基づいて意思決定するように仕向けることであり、これを「瑕疵ある意思決定」という。
瑕疵というのは、Wikipedia(09年4月12日最終更新)では、以下のように説明されている。
瑕疵(かし)とは、ある物に対し一般的に備わっていて当然の機能が備わっていないこと。あるべき品質や性能が欠如していること。欠陥(厳密には、瑕疵≒欠陥であり、瑕疵⊃欠陥の関係である。瑕疵は単なる不完全、欠陥は安全に係る不完全を指す)。
つまり、意思決定を行うために当然の条件が備わっていないということである。
この意思決定を行った第二段階までにおいて、必ずしも違法性が生じているとは限らない。
山崎和邦『詐欺師と虚業家の華麗な稼ぎ方 人はこうして騙される』中経出版(0511)では、以下のようなケースを例示している。
たとえば、手品・奇術において、その素晴らしさに酔った観客が、「次回も見に来よう」とか「友人を誘って一緒に見に来よう」と意思決定し、それを実行に移しても、その「錯覚による意思決定」を起こさせたことに関しては違法性がない。もちろん、犯罪でもない。
詐欺の本質は、この「錯覚によって、この人に財物を渡そう」という意思決定をさせ、それを実行に移させるところにある。
刑法第246条の規定は、まさに「人を欺いて」ということを要件としている。
欺くということは、相手を錯覚に陥らせて、ということである。
この「錯覚による意思決定」を、法律用語では、「瑕疵ある意思決定」という。
騙された側(カモ)が、錯覚から覚めてその意思決定を否定したら、法理的にはその契約は取り消され、無効となる。
言い換えれば、詐欺が成功するためには、カモが錯覚から覚めないようにすることが重要で、錯覚から覚めないうちに、カモに自らの意思で財物を提供させなければならない。
詐欺師は、財物を奪うのではない。また、盗むのでもない。
相手(カモ)に、自らの意思で財物を提供させるのである。
カモが自らの意思で差し出すのであるから、詐欺は、盗みや脅迫よりも罪を加える正当性(当罰性)は、少ないということになる。
一流詐欺師は、カモが錯覚から覚める前に、事情を知らない第三者(善意の第三者)にその財物を売り渡してしまう。
脅迫による意思決定は、善意の第三者を含む誰に対しても、取り消すことができ、財物を取り戻すことができる。
しかし、詐欺によって差し出した財物は、善意の第三者から取り返すことができないのである。
山崎氏は、一流詐欺師は、カモの錯覚が容易に覚めるようなことはせず、場合によっては一生気づかない場合もある、という。
詐欺という犯罪を考える場合、重要なことは、被害者の意思によって財物が詐欺師に移転するということである。
ビジネスの場合においても、社会通念上許される範囲で、過大な表現によって相手の満足度を高めようとすることは多々ある。
その社会的通念ということが曲者で、ここまでというような明瞭な定義はないし、計量できるものでもない。
いわゆる「才覚」というものと、相手に瑕疵ある意思決定をさせることとは、ほとんど紙一重ともいうことができる。
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コメント
以下は、個人的なことなのですが、最後まで読んで頂けたら嬉しいです。あるホームページの紹介をしたいのです。
私は日頃からマスコミの世論誘導に危惧を抱いています。私は無党派です。
下記のHPを見つけて色々と考えさせられました。このHPは政治に詳しくない人でも読めるように、有志で編集しているもので、今の日本の政治についてマスコミが報道しない内容が書かれているページです。
より多くの人に知ってもらい、又感想を聞きたいと思いこのような形を取りました。
このHPの内容を一通り見て何か発見したことはあったか、何か思うことはあったか等、一言でもいいので書いて頂けると嬉しいです。感想はなるべくHP内の掲示板にお願いします。
HPの名前は、「初心者のための国民が知らない反日の実態」と「国民が知らない反日の実態」です。
http://www36.atwiki.jp/support5482/
http://www35.atwiki.jp/kolia/
最後まで読んで下さってありがとうございました。
このコメントは、管理人様の判断で削除して頂いて結構です。
ただ、上記のHPは一度でもいいので読んでみて下さい。
では失礼します。
投稿: free | 2009年5月19日 (火) 23時44分
free様
コメント有り難うございます。
いろいろ参照させていただき、自分の見解を錬成して行きたいと考えています。
今後とも宜しくお願いします。
投稿: 管理人 | 2009年5月31日 (日) 11時08分