「情報」という言葉
「情報」という言葉はいつから使われるようになたのだろうか?
諸説があるが、有力なのは、明治の文豪・森鴎外が、クラウゼヴィッツの『戦争論』を訳した時に、Nachrichtの訳語として用いたときから、という説である。
「情報」という概念が、社会一般にとって重要であることをいち早く指摘したのが、梅棹忠夫さんの「情報産業論」などの論考だった。
それまでは、情報将校とか内閣情報局というような言葉が示すように、「情報」という用語は、軍事的あるいは政治的な範疇に限定されていたようである。
この言葉の用例を見てみよう。
『ブリタニカ』(1973年版)では、「情報intelligence」の項は次のような説明されている。
国家、団体、または個人が、敵対、対立、競合関係にある国家、団体、個人についての状況を知るために獲得する知識をいう。
…中略…
これらに関する資料が情報資料informationであって、一般には混同されて使用されている。
明らかに、軍事的もしくは政治的な用語として説明されている。
また,『広辞苑』の第2版(1969)では、次のように説明されている。
information:或ることがらについてのしらせ
より一般的になっているが、そのぶん曖昧で漠然としている。
『広辞苑』の第4版(1991)では、上記に加えて以下が追加されている。
②判断を下したり行動を起こしたりするために必要な知識
コンピュータが広く使われるようになってきた社会背景を反映したものといえよう。
経営情報システム(MIS:Management Information Systems)が喧伝されたのが、1960年代の終わりから1970年代の初頭にかけてだった。
従来の経験に頼っていた経営をコンピュータ利用によって効率化することを目的としていたが、当初の期待通りの成果は得られないまま、ブームは終焉した。
ところで、鴎外が組み合わせた「情」と「報」は、本来次のような意味を持つという。
「情」:青は、清く澄み切ったエキスの意を含む。情は、「心+音符青」の会意兼形声文字で、心の動きをもたらすエキスのこと。
「報」:「手かせの形+ひざまずいた人+手」の会意文字で、罪人を手でつかまえてすわらせ、手かせをはめて、罪に相当する仕返しを与える意味をあらわす。転じて広く、し返す、お返しの意となる。
つまり、「情報」とは、「心の動きをもたらすエキスとそのフィードバック」ということになる。
現在、「情報」という語は、情報社会、情報産業、情報経済、情報科学、情報技術などというように、極めて幅広い内容を含むものとして使われるようになっている。
また、その幅広い内容によって、「情報」が、現代という時代を特徴づけているということができるだろう。
もとより鴎外は、現在のような社会状況を予見していたわけではないはずである。
しかしながら、さすがにその造語力は、遠い将来にまで届いていたということになるだろう。
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