田中角栄元総理の功罪再考
私たちの世代にとっては、田中角栄元総理=金権政治家であって、余り「功」に関するイメージはない。
しかし、田中角栄元総理の金権イメージを決定づけたロッキード事件の、有罪判決の根拠が、かなり疑わしいものであるとしたら、もう一度、先入観を取り除いて考えてみることが必要だろう。
小林吉弥監修『知識ゼロからの田中角栄入門』幻冬社(0903)によって、田中角栄という政治家の功罪について再考してみよう。
上掲書では、田中角栄の「功」として、「戦後の日本の保守政治の主導権を官僚から政治家・政党に取り戻したことを挙げている。
角栄以前の自民党は、岸(商工省)、池田(大蔵省)、佐藤(鉄道省)といった顔ぶれをみれば、官僚主導の政治だったと見ざるを得ないだろう。
その官僚主導の政治を打ち破ったのが角栄だった。
上掲書によれば、田中角栄が手がけた議員立法は33件に及び、それは未だに破られていないという。
国会議員が議員立法するのはある意味では当然のことではあるが、日本の政治tの現実は、必ずしもそうではない。
角栄は、「都会と地方の格差をなくす」ことを目標に、多くの法律を成立させた。
必然的に、道路、住宅、国土開発に関する法律が多く、それが結果的に利益誘導や利権の温床になったことは事実であろう。
また、自然環境の破壊に繋がったという面も否定できない。
しかし、過密・過疎の同時解決というわが国の国土政策の一貫した課題は、未だに解決されていない。
都会と地方の格差はむしろ拡大していると言わざるを得ないだろう。
角栄の主張した『日本列島改造論』の骨子は、以下のようなものであった。
・工場を過密な都市から過疎の農村に移動させ、労働力を過疎地帯に呼び戻す
・日本列島全体を高速道路や新幹線などの交通ネットワークで結び、地方の工業を興す
・人口25万人規模の中核都市を全国に作り、その都市を中心として公害のない住み良い空間を作る
小泉改革によって格差の拡大が問題視されていることを考えれば、角栄の目指した方向性を再評価することも必要なのかも知れない。
また、外交に関しても、日中国交回復や日米繊維交渉などに功績をあげたことに目をつぶるべきではないだろう。
一方、「罪」として、上掲書は政治手法を挙げている。
金脈問題で政権の座を降りたあとも、自民党を支配して、キングメーカーとして君臨し続けた。
それが可能だったのは、数の力であり、究極的には集金能力に帰着する。
また、国土改造を目指す公共事業が、財政を圧迫したことに加え、ゼネコンが談合の代名詞的になってしまっている現実があるように、公共事業の意思決定に不透明な部分がつきまとう。
しかし、談合の問題は、単純に「悪」として排除してしまうと、現実的な解を見失う可能性がある。
談合が行われる対象となる公共事業の多くは、市場メカニズムに馴染まない。
一回性のプロジェクトであることが多いからである。
例えば、巨大なダムなどは、個別に事情が異なることは明らかであろう。
一回性の問題に関しては、必ずしも市場メカニズムは有効ではない。
公共事業などで行われる談合は、ある意味で、このような業界の事情を反映したものともいえよう。
そして、すべてが競争入札で価格競争になってしまったら、「質」の問題が発生してくることは避けられない。
談合が結構だということではないが、「談合=悪」という図式では、割り切れない問題があるように思う。
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