« マスメディアの社会的影響力 | トップページ | 差異の認識としての情報 »

2009年4月 8日 (水)

判断の材料としての情報

「情報」とは、どのような性質を持ち、どのような働きをするものか?
「情報」という言葉で先ず頭に浮かぶのは、判断の材料としての役割である。
今度の土曜日にゴルフをしないかという誘いがある。
天気が良ければ行きたいが、雨ならば止めにしたい。果たして天気予報はどうだろうか?

あるいは、どうも最近肥満気味である。
いわゆるメタボリックシンドロームに該当するだろうか?
クリニックに行って診断して貰おう。

これらはいずれも、判断の材料としての情報ということになる。
最も典型的なものは、ビジネスの取引や投資に関する情報であろう。
この取引先は信用できるのか?
あるいは、提示されている価格は、相場に比べて安いのか高いのか?
この銘柄は、売りか買いか?

『孫子』の有名な言葉に、「彼ヲ知リ己レヲ知レバ、百戦シテ危ウカラズ」がある。
知るというのは情報の働きであり、判断の材料としての情報の重要性を示した言葉として知られる。
「知る」ということにもレベルがある。
的確な判断をするためには深く知ることが必要で、深く知るためにはなるべく量が豊富で質が優れていることが必要だろう。
例えば、投資対象の企業の情報は、なるべく詳しく知っている方が有利である。
来期の見通しを知っているのと知らないのとでは、投資の判断は当然異なってくる。

このような場合、できれば、他人が未だ知り得ていない極秘情報等が入手できれば、それに越したことはない。
例えば、ずっと黒字を続けていた会社が、来期は一転して赤字に陥るという情報があったとする。
世の中の人が知らない状態で、自分だけがその情報を知っていたら、絶対的に有利である。

ワーテルローの戦いにおけるロスチャイルド商会の行動は、投資と情報の関係を示す有名な事例である。
以下は、ロスチャイルド商会のネイサンに関する逸話である。

ナポレオン・ボナパルトの最後の戦いとなった1815年の「ワーテルローの戦い」。ヨーロッパを支配しようと侵略戦争を続けた皇帝ナポレオン率いるフランス軍と、イギリス・オランダ連合軍およびプロイセン軍(ホーエンツォレルン家が支配する王国の軍隊)が対峙した天下分け目のこの戦争の戦況を入手しながら、ロンドン・ロスチャイルド商会のネイサンは「その時期」を狙っていました。
ワーテルローでナポレオンが勝てば、イギリスの国債は暴落して紙くずとなります。反対にウェリントン将軍が勝てばイギリス国債は暴騰します。つまり「どちらが勝ったか」という情報をいち早く入手できる者が有利なのです。
ロスチャイルド家は「ワーテルローの戦い」の勝敗を見届ける者を手配していたので、イギリス軍の使者よりも早くイギリスのネイサンのもとに「イギリス軍勝利」の連絡が届きました。伝書鳩を使ったのか、伝達用の馬と船を配置しておいたからできたのか不明ですが、当時のロスチャイルド家はドーバー海峡に自家用の快速船を何隻も運航させていたという記録が残っています。また、ドーバーとロンドンの間にロスチャイルド家専用の早馬を常備していたともいわれています。そんな情報網によってネイサンはイギリスでただ一人、「イギリス軍勝利」の事実を知っていました。
ネイサンは、ただちにロンドン金融街シティの証券取引所に向かい、イギリス国債を売って出ました。ネイサンが売りに出たのを見て、「イギリス軍敗北」という情報が流れ、相場は大暴落しました。「大英帝国破滅の日が近い」と周囲はパニックに陥ったようです。そんな混乱の最中、紙くず同然となった国債をひそかに買い集めているグループがいました。ネイサンの使用人です。そして「その時期」を見計らってネイサンも国債の買いに転じました。
翌日、ウェリントン将軍の使いが「イギリス軍勝利」のニュースをイギリスに届けた時に、イギリス国債が破格の値上がりを示したことは言うまでもないでしょう。底値で買い、高値で売ったことで、当時の金で「100万ポンドの利益」を上げたという伝説が残っています。市場の小さな時代のことですから、この利益はまさに天文学的数字といえるでしょう。こうして金融王ロスチャイルド財閥が誕生し、このファミリーがヨーロッパ全土を支配するようになっていくのです。

http://fxthegate.com/2007/10/6.html

しかし、特定の人だけが極秘情報を知って投資を行うことは公平ではない。
公平さが失われると、市場全体の信用が無くなり、市場が成立しなくなる。
そのため、投資に関する情報に接する機会は、可能な限り均等になるように制度化されている。
例えば、インサイダー情報に基づく取引が厳しく罰せられるのは、極秘情報に接することのできる立場の人が、それによって有利に行動することを防止するためである。

今日(4月8日)の日本経済新聞には、東証二部に上場しているジェイ・ブリッジの元会長が、証券取引法(現金融商品取引法)違反の容疑で出頭を要請されたことを報じている。
ジェイ・ブリッジが業績悪化を公表する前に、海外の取引口座で自社株式を売却した疑いである。
報道によれば、元会長は、所有する同社株を売り抜けて、数千万円の損失を回避したとされる。

あるいは、風説の流布が禁じられているのも同様の事情だろう。
風説というのは、確かな根拠に基づかない報道である。
しかし、風説か否かは、情報が流れた段階では必ずしも明確ではない。
イタリア中部で6日起きた地震について、以下のようなことが報道されている。

震源に近いラクイラを拠点に研究する物理学者ジャンパウロ・ジュリアーニ氏は、数年前から、地中から排出されるラドンの量を測定すれば、地震の発生をある程度まで予知できると主張。
先週初め、ラクイラと約60キロ東南のスルモーナを大規模な地震が襲うとする研究結果をインターネット上で公表した。
瞬く間に地元に地震のうわさが広まり、拡声機を使って周辺住民に家から逃げ出すよう触れ回る人や、恐怖のあまり道路に飛び出す人が出るなど大騒ぎになったという。
http://www.asahi.com/international/update/0407/TKY200904070102.html

これに対し、政府当局は「パニックを起こす」として警告を削除させていたという。
果たして、この地震予知情報は、風説に該当するものか否か。

判断の材料としての情報は、なるべく豊富で良質であることが重要だから、組織において重要な判断を担当する上位の階層には、それなりのキャリアを積んだ人間が求められる。
キャリアを積んできた過程は、情報に接し、情報の良否を判断する過程でもあるからである。

|

« マスメディアの社会的影響力 | トップページ | 差異の認識としての情報 »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

思考技術」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 判断の材料としての情報:

« マスメディアの社会的影響力 | トップページ | 差異の認識としての情報 »