東京湾金塊引揚げ事件をめぐる怪死者(2)
ポツダム宣言では、日本軍が戦争中に各国から略奪した財宝類は、無条件で没収することになっていた。
東京湾の金塊類が、外国からの略奪物資だったとすれば、確実に没収されたはずである。
私たちは、ともすれば、日本はアメリカに占領されたと思いがちであるが、米英中ソの代表で構成される対日理事会が占領政策を決定していた。
金塊類は極秘でアメリカに運ばれたとされているが、オープンになっていれば、ソ連も分け前を求めたことは必定だった。
米軍は秘秘を保つのにもっとも問題になるのは、下村勘太だと考えた。
下村は、愛宕山のアメリカ検事局や中野刑務所で拷問され、伊山から聞いたことを白状し、伊山も自供した。
下村は、正確な日時のデータは残っていないが(発行日時不明の新聞記事の切り抜きが残っている)、敗戦数年後の冬、東京湾で釣りをしている時に、タンカーに衝突され、海中に投げ出されて行方不明になった。死体は発見されなかった。
下村も不審な死を遂げた1人であるということになる。
国会の場で、隠退蔵物資処理委員会の副委員長だった世耕弘一代議士(世耕弘成現参議院議員の祖父)は、近畿大学の初代学長兼理事長だった。
上掲書によれば、日本銀行の地下金庫に、国民が供出したダイヤの一部が保管されていることを民間人でつきとめた青野進という人物がいた。
金塊類については、日米政府共に存在を否定していたが、国民がダイヤを供出したのは公知の事実だった。
世耕の世話で近畿大学理事長になったのだが、世耕弘一から水谷明に会うことを勧められ、青野は1953年の暮れあたりから、水谷宅に現れるようになった。
青野は、1954年5月14日に、自宅に警官が来て逮捕され、大阪へ護送された。
逮捕の理由は、近畿大学から出されていた恐喝の被害届によるものだった。
青野の友人によれば被害届はCIAの謀略だった。世耕の知らないうちに、理事を脅して被害届を書かせた。
青野は、16日に警察医と称する男に注射を打たれ、18日に急性肺炎を発病したということで留置場の近くの回生病院に入院し、逮捕の5日後の19日に死んだ。
顔にブツブツが一杯でき、皮膚が黒ずんでおり、息を引き取る前に、「毒を飲まされた」と洩らしたという。
東京湾に沈めた金塊類は、ベトナムの旧王朝のバオ・ダイ帝の秘宝だという説もある。
1942年に、同盟通信社の社員だった加納音弥という人間が、アジア海運という会社がチャーターしたギリシャ船籍の貨物船を利用して、大陸や南方諸島から金塊や宝石類を日本に運んだ。
アジア海運の本社事務所は上海にあったが、同社の柳社長は、ギリシャ船籍に船が財宝類を積んで日本に向かった約3か月後の43年1月上旬に、アポイントなしに現れた男に、事務所で銃撃され即死した。
水谷明に近づいてきた男の中に、島了介という元憲兵がいた。
青野進が怪死してから1か月半ほど経った1954年の7月上旬に、鉱山会社元社長に連れられて、水谷明の自宅に現れた。
米軍に勤めていて、ヘンリー中王子という名前で通っていると自己紹介した。
島は、水谷とGHQの仲介をしていたが、水谷の詐欺容疑の裁判の際に、商人として出廷し、米軍情報部の雇員だったことを認めた後、「この金塊が極秘に米国に渡った後、吉田政権を維持するため、CIAから二千五百万ドルが渡っております」と供述した。
水谷が2年の実刑判決を受け、社会に戻った時には、島は既に死んでいた。
水谷の周辺の女性が島を見舞ったときの様子を、「別人のように顔が変わり、皮膚がどす黒くなり斑点が出ていた」と語っている。
上記のように、東京湾から引揚げられた金塊類をめぐって、何人もの怪死者が出た。
しかし、今となっては、それらが相互に関連性があったのか、死因が何であったのかなどは、解明すべくもない。
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