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2009年4月18日 (土)

M資金話の発生・流布・変容・受容

青山学院女子短大の紀要に、「M資金伝説」を掲載している渡辺良智教授は、噂や流言の発生・伝播・受容等の研究者である。
渡辺教授は、「M資金」は、消失したのか肥大したのか、いずれの言説が正しいかは未確認であり、その曖昧な状況が、噂を生み出す重要な条件の1つであるとしている。
しかも、お金に対して人々の関心は高い。
流言・噂の流布量は、その話題の重要さとその話題についての曖昧さの積に比例するとする説がある。

R(うわさの流布量)=i(うわさの重要度)×a(うわさの曖昧さ)
(オールポートとポストマンによる定式化)

M資金話は、この公式をあてはめれば、流布量の大きな噂になる要件を備えている、ということになる。

M資金話が噂されるようになったのは、すなわち噂の発生時期は、、講和条約締結以後、1951年夏頃から52年末頃までだといわれる。
1954年2月の衆議院法務委員会で、「世評によると、マーカット資金が約800億円あると伝えられている。これが鉄道会館、造船界に流れているのではないか」という質問が出た。
法務大臣は、これに対して「報告を受けていない」と答弁している。

M資金の原資については、先に紹介したようにさまざまな説があるが、日本経済の急激な高度成長を裏で支えた巨額の秘密資金があったのではないか、という憶測が、M資金の存在を信じさせる1つの要因となっている。
M資金話によく出てくるのは、水田三喜男氏である。
水田氏の略歴は、Wikipedia(09年4月9日最終更新)によれば、以下のようである。

1905年4月13日 -1976年12月22日。
城西大学創立者。大蔵大臣を数度に渡って務め、戦後日本の代表的な財政家である。
1953年、第4次吉田茂内閣で経済審議庁長官として初入閣、保守合同直後の1955年に自由民主党政務調査会長に就任。義理人情の党人派が多い大野伴睦派にあって政策通として活躍。1956年石橋湛山内閣通称産業大臣、産業計画会議委員(議長・松永安左衛門ヱ門)就任。
1960年、第1次池田勇人内閣で大蔵大臣に就任。積極財政論者として池田の所得倍増政策に共鳴し、推進役となる。
第2次池田内閣で引き続き留任し、続く佐藤栄作政権では第1次~第3次内閣に渡って蔵相を務め、言わば日本の高度成長期期を象徴する財政家の一人であった。
特に佐藤栄作政権末期に起こった、いわゆるニクソン・ショックでは為替相場安定に腐心し、変動相場制へと動く過渡期の国際金融情勢下で日本の財政を舵取りした人物として知られる。

水田は吉田首相の要請で「産業投資会計特別資金」制度を創設した。
原資200億円で、一部の基幹産業だけ超低利で融資されたといわれるが、実態は不明である。
これが巨額にふくらんで、M資金になったという説があり、水田蔵相時代の大蔵省高官の名前が、M資金話に登場している。

渡辺教授は、M資金の噂がいつ発生したかは不明であるが、GHQの秘密資金がどうなったか、日本に残されているのではないか、といった曖昧な状況があり、他方に日本経済の高度成長があったので、この高度成長を支えた秘密資金があったのではないか、という噂を生んだのではないか、としている。

そして、M資金話が時間をおいて間欠的に広まるのは、詐欺グループが逮捕されるとしばらくは警戒心が高まり、詐欺師たちも活動しにくくなるが、そのうちに新しい架空融資話を持ちかけるようになる、ということである。
M資金話の基本は、「実は巨額の秘密資金があり、それを特別に(長期、低利、無担保)で融資する」というものであり、それが時間の経過ともに、さまざまに変容していったものである。

一流企業の経営者が、荒唐無稽ともいうべき架空の融資話になぜ引っかかるのか?
それは、以下のような要因が存在するからである。
・経営者側に、秘密の巨額資金が実在するのではないか、という期待感。
・詐欺師らの巧妙な語り口。
・権威の利用(社団法人、宗教法人、財界の有力者や有名人の名前など)
・場所の演出(都心の一流ホテル、大蔵省や政党本部の一角など)

M資金話を持ち歩く金融ブローカーは、3万人とも5万人ともいわれる。
それだけの人が、融資斡旋を、いわば職業にしているのである。
M資金の融資を受けたと公表している企業はないが、M資金詐欺に引っかかり辞任した経営者は、少なからずいる。
われわれが知ることのできるのは、マスコミが報道した詐欺の被害届が出された事件だけである。

つまり、以下のようなケースが存在したとしても、関係者以外は知りようがないのである。
1)M資金の融資が成立した場合
2)詐欺未遂事件
3)詐欺事件が起きても、被害届が出されない場合
渡辺教授は、M資金が実在するとしたら、大蔵省理財局が管理する「資金運用部資金」がそれに近いかも知れない、としている。

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