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2009年4月16日 (木)

戦後の日本に実在したとされる秘密資金

渡辺良智「M資金伝説」(9812)(http://ci.nii.ac.jp/naid/110000468139/)により、戦後日本に実在したと噂されてきた秘密資金を概観してみよう。

(1)マーカット資金
GHQの経済科学局(ESS)長だったマーカット少将が管理していたといわれる秘密資金。
「M資金」の「M」は、マーカットに由来するというのが定説的である。
占領当時のESSは、金融、財政、産業、貿易、労働などに対して、絶対的な権限を持っていた。
関係業者からの献金や管理貿易の利潤が集まっていたといわれるが、それ以外に大きな資金源となったとされているのが、戦時中に日本軍がかき集め、敗戦後に隠退蔵したとみられる貴金属やダイヤモンドなどの軍需物資である。
旧マニラ派遣軍の将校が持ち帰った大量のダイヤモンドが存在したとされ、それがマーカット資金の最大の原資になったといわれる。
また、戦時中に国民から強制的に供出させた大量のダイヤモンドも、日本銀行地下金庫などから接収されており、のちに日本に返還されているが、強奪品としてオランダや中国などに返還された分や、一部米軍人が持ち出したといわれている分を除いても、50万カラットのダイヤモンドが消失している。

(2)四谷資金(W資金)
GHQのGⅡ(参謀第二部)のウイロビー少将系の資金。
四谷のイエズス会の教会を拠点にしていた神父が、輸出入取扱い権限などGHQから与えられた特権と秘密の闇ドル取引によって莫大な収入を上げたといわれており、それが四谷資金の原資になったとされる。
神父は1953年12月に外為法違反容疑で逮捕された。
四谷資金は、アメリカ資金(メリケン・ファンド、略してM資金)といわれるようになったとされる。
GⅡ系のキャノン機関などにより、反共工作に使われたといわれている。

(3)キーナン資金
GHQの法務局系統で管理されていたといわれる資金。
キーナン検事とカーペンター法務局長が管理者といわれ、東京裁判の戦犯容疑者からの押収物や贈賄金品が原資とされる。

(4)G資金
ガリオア・エロア資金から派生したといわれる資金。
日本は、被占領中、アメリカからガリオア(占領地救済政府会計)とエロア(占領地経済復興資金)による援助を受けた。
当初、日本側は無償援助と考えていたが、アメリカから債務返済を迫られ、その交渉過程で、アメリカ側の記録が19億5400万ドルであるのに対し、日本側の記録が17億9500万ドルであることが発覚した。
アメリカからの援助物資が、日本政府に引き渡される前に一部が消えていたと考えられ、ESSの高官がヤミ市場に売り捌いたのではないかとされる。
それがM資金の原資となったといわれている。
1962年に結ばれた協定では、日本が支払うことになった債務は、4億9000万ドルとされたが、アメリカの債権放棄した分が、そのまま日本に円として残され、アメリカ軍のヒモツキ資金として運用されているのではないか、とされる。

(5)X資金
1946年4月、旧陸軍越中島糧秣廠付近の海底から、大量の貴金属塊がGHQの手によって引き揚げられた(09年1月16日の項)。
日本人の情報提供者は、プラチナ1200本と純金300本のインゴットだったとして報償金を要求していたが、大蔵省の説明では引き揚げられたのは銀塊で、占領地から略奪されたものは返還し、旧陸軍の銀は国庫に帰属したとされる。
一説には、ガリオア・エロア債務の未返還分と相殺されてアメリカに引き渡されたのではないか、と憶測された。
ESS局長のマーカットが管理してマーカット資金となった、とか、保守党にプールされて政権の資金源になった、などの噂もある。

(6)蓄積円
戦後、日本に進出したアメリカの映画資本や石油メジャーは、莫大な売上を上げたが、日本に手持ちのドルがなかったので、本国への送金が制限され、その大半が、円のまま「非居住者預金勘定」として日本に蓄積された。
これらの蓄積円の9割方は闇に消えたといわれる。
1955年に、蓄積円を日本の信託銀行に託し、重要産業に投資する取り決めができたが、それ以前にヤミで融資されていたとされる。

上記のような実在したといわれる秘密資金は、いずれもGHQによる占領時代に発生したものである。
もちろん、「秘密」といわれる以上、実在した明証があるわけではない。
当初は、占領軍の対日工作などに使われていたが、講和条約後は、米国の合意のもとに、日本の保守本流グループのリーダーが管理し、基幹産業育成や保守本流体制維持のために用いられたらしい、と渡辺教授は書いている。
そして、これらの秘密資金がかつて本当に実在したとして、それが消尽されてしまったか、公的勘定に組み込まれて消失してしまったと考えるか、あるいは利子が利子を生んで膨大な秘密資金として存在し続けているか、いずれと考えるかによって、M資金話は、幻想か事実か分かれることになる、としている。

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