同級生の死/追悼(6)
年度が改まったばかりの4月1日、小学校・中学校を共に過ごした旧友(女性)が亡くなった。
一昨日の通夜、昨日の告別式に、何人かの同級生と共に出席した。
すでに若いとは言えないわれわれではあるが、まだまだ早い、早すぎると思う。
田舎のことであるから、小学校区と中学校区が全く同一で、9年間にわたって一緒だった。
その頃は、1年制の幼稚園が始まったばかりの頃だった。
今のように、全員が幼稚園に通っていたのかどうか?
私たちの世代は、もちろん「七歳にして男女席を同じうせず」という時代ではなかったが、かと言って現在のように性差を意識的に排除するという雰囲気でもなかった。
中学生くらいになると、異性に対する関心も高くなってくるが、好意を持っていても、心に秘めているというケースが多かったように思う。
そんなことだったから、亡くなった彼女と親しく話をするようになったのも、ずっと後年になって、同窓会を重ねるようになってからである。
特に、彼女の家への帰り道の途中に我が家が位置していたから、何回か帰りの車に同乗させてもらったことがある。
こちらは当然のことながら飲酒しており、お酒を飲まない彼女に運転をお願いできるのは有り難かった。
去年の夏、暑気払いと称して集まったときもそうだった。
その帰りの車の中で、話題が家族の話になった。
殆どの母親がそうであるが、息子のことになると途端に手放しで自慢話になる。
その自慢の息子が、告別式を終えようとする遺族の挨拶の途中、「母は……」と言いかけて、突然絶句し、嗚咽した。
ただでさえ涙もろい性質なので、涙が溢れてくるのを抑えきれなかった。
周りの女性は、ハンカチでしきりに目を拭っていてる。
会場を出ると、同級生の目も真っ赤だった。
私たちが小学校に入学した頃は、まだ戦後の傷跡が残っているような時代だった。
もちろん貧しい時代だったが、それが当たり前だと思っていたから、余り不満もなかった。
朝鮮戦争が勃発し特需が発生した恩恵を受け、小学生時代に世の中は急速に変わっていく。
小学校を卒業する頃には、経済白書に、「もはや戦後ではない」という名文句が登場するようになっていた。
そして、その言葉を裏付けるかのように高度経済成長の時代が始まる。
私たちに、青春と呼べるような時代があるとすれば、それはまさに高度成長と共にあったと言っていいだろう。
そして、社会人になって時代のあり方が大きく転換していくなかで、私は、学生時代に想定していた人生行路から逸脱してしまうことになる。
石油化学の技術者として新製品開発の仕事に従事していたのだが、藤原肇『石油危機と日本の運命-地球史的・人類史的展望』サイマル出版会(1973)という著書に触発されて、シンクタンク的な職業への転職を決意した。
幸いにして希望に沿う形で転職できたのだが、新しい職場に馴染む間もない半月ばかりの後、第一次石油危機が発生した。
世の中は狂乱状態に陥ったが、私は、上掲書の分析の的確さを再確認した次第だった。
時代は、重厚長大から軽薄短小へ。
マイクロエレクトロニクスが驚異的に発展していく。
学生時代の終わりごろ、計算が多かった研究室にようやく入った電子式卓上計算機(電卓)が、瞬く間に名刺サイズまでダウンサイズし、価格も劇的に低下して、貧乏サラリーマンでも買えるようになった。
女性の専門職の1つであった邦文タイプは、ワープロに駆逐されてしまう。
今ではワープロ専用機を使う人もレアである。
桜の花が盛りである。
その中を黄泉路に旅立っていった人。
同級生は増えることがない。減っていくばかりである。
同級生の死は、自分の人生を振り返ってみる契機になる。
偶々ではあるが、私自身も、3月に1つの区切りをつけた。
それが句点なのか読点なのかは現時点では分からない。
友人からは「朽ち果てるには未だ早い」と叱咤された。
もちろん、朽ち果てる積もりはなく、新しい可能性にチャレンジする意欲はあるのだが。
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