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2009年4月17日 (金)

代表的な「M資金」事件

渡辺良智「M資金伝説」(9812)(http://ci.nii.ac.jp/naid/110000468139/)に、代表的なM資金事件の事例が取り上げられ、巨額融資話に用いられた言説と手口が検討されている。

(1)飛騨3兆円事件
1968年秋、飛騨の古川町に開発案件が持ち込まれた。
世界の11財閥が世界平和祈念のための自然公園の候補地を物色していたが、飛騨地方に白羽の矢が立てられ、古川町が中心になる。
単なる観光開発だけでなく、産業開発も行うもので、岐阜県の中津川を起点に、富山県高岡市に至る6車線の高速道路を通す。
この話に引っかかった地元の名士4人が、協力金として約1億円を出したといわれる。
この事件の主犯ら4人が、1970年10月詐欺の疑いで逮捕された。

(2)富士製鉄5000億円融資事件
金融ブローカーによれば、富士製鉄は八幡製鉄と合併する前、資産内容が悪く、対等合併できない状態にあった。
1969年1月、富士製鉄は、日本銀行、日本興業銀行を通じての融資を受けた。
金額5000億円、期間10年切替え30年、金利3.5%という融資依頼書と、2.5%のリベート支払い念書、経過記録が存在している。
この念書に基づき、金融ブローカーは、富士製鉄に融資斡旋料125億円を要求したが、富士製鉄側は念書はデッチ上げだとして特別融資を否定し、支払いを拒否した。
富士製鉄の専務は、金融ブローカーと会ったことを否定せず、念書を仲介した人物も渡したことを認めていた。
金融ブローカーによれば、リベートが支払われなかったのは、1969年5月に、富士製鉄社長、大蔵省高官、興銀関係者が、融資を興銀からの正規の融資だったことに切替えたためであるという。

(3)全日空3000億円融資事件
この案件については既に09年2月18日の項19日の項20日の項21日の項で触れた。
この事件で、大庭社長は辞任せざるを得なくなるが、同社長が書いた念書が、ロッキード社の秘密エージェントだった児玉誉士夫に渡っていたことから、ロッキード社のトライスター導入工作の一環だったという見方がある。
1972年11月、日本輸出入銀行法が改正され、輸銀輸入金融の対象が、原料から重要物資に変わった。
73年1月、輸銀資金が全日空に貸し付けられ、トライスターが導入された。
輸銀の金がM資金だったのかもしれない、と渡辺教授は書いている。

(4)グリーン資金事件
1979年9月、特種製紙社長が、M資金話に引っかかり、11億円の手形を詐取された責任をとって辞任した。
詐欺師グループの言説は以下のようなものだった。
戦後の復興のために、米国やヨーロッパの政府や金融機関が出資したグリーン資金がスイスの銀行にある。
大蔵省や日銀の高官のOBが管理し、優良企業に無利子で融資している。
返済期限40年で1000億円を融資する。スイスと日本の金利差から、800億円を定期預金しておけば、40年後には返済金額に相当するから、200億円は自由に使える。
このグループは、丸善石油の社長にも1兆5000億円の融資話を持ちかけ、融資を受けたら10億円を振り込むという念書を騙し取っていた。

(5)国際還付金詐欺事件
1979年夏、富士銀行や三菱銀行の「別段預金証書」、大平前首相や保利元衆議院議長などの連名の「還付金支払保証書」、大蔵省理財局からの国債還付送付の「通知書」などを持ち歩くグループが出現した。
これらの証書類は、いずれも偽造書類で、国債還付の制度もなかった。

(6)皇室M資金事件
皇室の莫大な資金を融資すると持ちかけて、経営者らから融資依頼書や手数料などを騙し取る事件がある。
M資金話のバリエーションと考えられる。
1980年に大手商社の課長が不動産ブローカーの話に騙されたほか、1988年10月に福島県の建築会社社長が、御上の融資話として、仮契約の経費として100万円、本契約の経費として400万円を詐取された。
1990年頃から、昭和天皇のご落胤で白仁王と呼ばれる白嶌誠哉殿下と称する人物を担ぐグループが、「産業振興対策特別中小企業育成資金」を融資するとして、手数料を詐取される事件が起きた。
全国27都道府県の約250人が被害にあい、被害総額は15億円以上になるといわれる。

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