巨額詐欺事件が発生する背景
M資金詐欺のような場合、被害者側も余り名誉なことではないと考えるため、真相は藪の中に覆われたままになりがちである。
安田雅企『追跡・M資金―東京湾金塊引揚げ事件』三一書房(9507)は、越中島海底から引揚げられた金塊類について、当初米軍は、引揚げを後藤幸正を中心とした日本側に決めていた、とする。
ところが、日本側に争いがあり、後藤が嫌気がさして、「米軍に一任します」としたことによって、急遽全面的に米軍一任に変更になった。
上掲書で、安田氏は、米軍の当初の案で進んでいたら、この財宝が原資になったはずの「M資金」「ペンタゴン資金」「グリーン資金」「ユダヤ財閥資金」「新M資金」「極東資金」「オイルダラー資金」などをかたる詐欺師が暗躍することはなかっただろう、と述べている。
そして、その被害者として、以下のような下記の名前を上げている。
・全日空大庭哲夫元社長
・俳優田宮二郎
・富士製鉄
・神戸製鋼
・東急建設
・明電舎
・丸善石油
・TBS
・日本高周波鋼業
・日本農産工業
・特種製紙
これらの事件によって、多くの一流会社の社長、役員が失脚しているのである。
戦後史における大きなミステリーということができるだろう。
M資金が実在するとは、一般的には信じられないが、「存在しない」ことを証明することは極めて難しいことである。
詐欺師たちが、、「一定の条件を満たす人格者(社会的信用、資金管理及び経営能力、地域社会における指導力、人心掌握力等に優れる者)であることが求められる」といって被害者にアプローチし、秘密を厳守することが、資金提供の絶対条件だとすることによって、当初は疑心暗鬼の被害者も、次第に引き込まれて行ってしまうのではなかろうか。
大企業といえども、ダブルスタンダードがあることが明るみに出ることがある。
つまり、公表されている決算書とは別の資金操作の存在である。
たとえば、1997年に自主廃業に追い込まれた山一證券は、巨額の「飛ばし」と称される簿外処理を行っていた。
「飛ばし」とは、同證券の「社内調査報告書」によれば、含み損の生じた有価証券を保有する企業がその損失を表面化させないために、決算期前等に企業間の市場外での直取引により、その有価証券を時価と乖離した価額(簿価等)で売却する取引で、その仲介を証券会社が行うものをいう。
http://www.kunihiro-law.com/jimusho/yamaiti.pdf
あるいは、高杉良『金融腐蝕列島 』角川文庫(9712)のモデルとなった第一勧業銀行では、総会屋の小池隆一に、巨額の資金を提供していた。
迂回融資のスキームを考案し、実行に移したのが、融資の審査を担当する役員だった副頭取の金沢彰という人物で、金沢の主導のもとに、小池隆一が第一勧銀から融資を受けた金額は、総計117億円に上った。
あるサイトに以下のような記述がある。
ところが驚愕すべきことに、金沢彰は、この総会屋事件が発覚して逮捕される前に、すでに第一勧銀から、別の職場に移っていた。国民の怒りを買ったもうひとつの金融界の不祥事、不良債権処理の最も重要な機関として設立された「共同債権買取機構」の社長として君臨していたのである。
この組織は、バブル経済のなか、銀行などの金融機関が不良の不動産担保をもとに貸し付けたために発生した不良債権を、担保つきで買取り、それを売却して、不動産を有効に生かす目的で、93年1月に162の金融機関が共同出資して設立した株式会社であった。ところが実際には、不良債権を買い取るだけで、それを売却したのは、わずか数パーセントという実績が示すように、まるで目的を果たしていなかった。
それでも金融機関は、この会社に売却すれば、無税で不良債権を償却できるので、これを隠れみのにして、世間体をとりつくろうことができる。事実上これは、銀行の倒産を防ぐための一時的なトリックであった。
http://members.at.infoseek.co.jp/saitatochi/jo.html
ダブルスタンダードがあり、問題解決の先送りをしている限り、常識外れと思われる融資話にも、乗らざるを得ない状況が生まれるといえるのではなかろうか。
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コメント
興味深い内容が満載です。
投稿: tcare | 2010年6月29日 (火) 10時22分