ロッキード事件⑦…第二次証人喚問
平野貞夫『ロッキード事件「葬られた真実」』講談社(0607)によれば、児玉誉士夫が国会での証人喚問に耐えられないと診断され、昭和51(1976)年2月16、17日の2日間にわたった証人喚問は、「児玉誉士夫というメインディッシュ抜きという、オードブルとデザートだけのコース料理のような味気なさを遺した」。
国民世論は、「断固として真相を究明せよ」と批判のボルテージを上げた。
2月12日に、日本政府は、米上院外交委員会の多国籍企業小委員会(チャーチ委員会)に対して、日本関連資料を提供することを決めた。
しかし、ヘンリー・キッシンジャー国務長官は、この要請に対して、「ロッキード事件に関する資料は、友好国の政治的安定を乱す可能性があるため、賄賂を受け取った政府高官の名前の公表には反対する」と明言していた。
2月18日に、世論の風を受けて、三木首相が宮沢喜一外相に対して、「外交ルートを通じてアメリカ側に、すべての資料を日本側に提供するよう要請しろ」と命じた。
児玉誉士夫に関して、アメリカが公表した領収書が本物ならば、外国為替及び外国貿易法違反が成立するし、脱税も想定される。
しかし、児玉を逮捕するためには、アメリカ側の資料提供が必須だった。
三木首相は、政府高官というのは、田中内閣の時の高官だと踏んでいたから、その名前の公表に拘った。
政府高官の名前の公表という首相の方針は、キッシンジャー長官の方針と相反するものだから、アメリカ側からの捜査資料の提供は難しくなる。
野党は、証人喚問が不発に終わったことから、マスコミと世論から袋叩きにあい、「ロッキード問題に関する決議案」をもって攻勢に出ようとしていた。
国会を正常化させて予算審議を再開するため、自民党も野党の決議案を丸飲みし、2月20日に野党主導の決議案が合意に達した。
決議案には、「政府高官名を含む一切の未公開資料」の提供を、米国上院及び米国政府に求め、政府には「特使の派遣等を含め」万全の措置を講ずべきである、とあった。
この国会決議を受けて、三木首相は、「自分から書簡をもってフォード大統領に要請する」と宣言した。
つまり「三木親書」を以て大統領に直訴するというわけである。
「三木親書」には、「関係者の名前があればそれを含めて、すべての関係資料を明らかにすることのほうが、日本の政治のためにも、ひいては永い将来にわたる日米関係のためにもよいと考える」と書かれていた。
三木首相と世論に後押しされて、野党側は、2月24日に、第二次証人喚問として、16名もの喚問を与党側に求めた。
荒船清十郎予算委員長の裁断で、児玉誉士夫、大庭哲夫(前全日空社長)、福田太郎(ジャパン・パブリック・リレーションズ社長)、鬼俊良(ロッキード・エアクラフト社日本支社支配人)、アメリカ在住のアーチボルト・コーチャン(ロッキード社前副会長)、シグ片山(ユナイテッド・スチール社社長)、若狭得治(再喚問)、檜山広(再喚問)、伊藤宏(再喚問)、大久保利春(再喚問)で折り合いが付けられ、3月1日に喚問することが決まった。
2月23日、予算委員会理事会は、再度児玉誉士夫邸に医師団を派遣することを決定し、国会への出頭が不可能ならば、臨床尋問でも構わないという方針を打ち出した。
しかし、26日に児玉邸に派遣した医師団から、「臨床尋問も無理」という報告が入る。
28日には、コーチャンとシグ片山から、証人喚問には出頭できないという連絡が入る。
アメリカ在住のアメリカ国籍であるから、予想されたことではあった。
児玉誉士夫からは、再度、診断書つきの「不出頭届」が提出され、受理された。
3月1日、主役クラスを欠いた第二次喚問が開始された。
第二次喚問では、大庭哲夫全日空前社長と若狭得治現社長の証言が、激しく対立した。
●機種の問題について
大庭:現役であれば、DC10(マクドネル・ダグラス社製)を採用する。
若狭:DC10は、昭和47(1972)年、5、6、7月に立て続けに事故があり、採用から外れた。
●オプションの問題について
大庭:三井物産も立ち会って、昭和45(1970)年3月ごろオプションをした。
若狭:オプションする段階になかった。
●引継ぎ問題
大庭:退任の判断をしたとき、若狭と渡辺副社長にオプションの処理を依頼した。
若狭:DC10に関する大庭からの引継ぎは一切ない。
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