西松建設献金問題における違法性の成否
郷原信郎氏が、日経ビジネスオンライン3月24日号の記事を書いたのは、小沢民主党代表秘書の起訴が確定する前であったが、昨日、起訴が確定したので、郷原氏の問題提起は、仮定の話ではない。
日本の社会のあり方に重要な警鐘を鳴らしているものと受け止めるべきであろう。
郷原氏は、検察の説明責任について、次のように書いている。
何よりも、政治資金規正法という、罰則の適用の方法いかんによっては、重大な政治的影響を与え、まさに政治的権力を行使することにもなり得る法律についてどのような方針で臨んでいるのかについて、検察のトップである検事総長が、検察の組織としての基本方針を説明する必要がある。
郷原氏は、本件の捜査における罰則適用が、政治資金規正法の基本理念に反しているのではないか、という重大な疑念が生じている、とする。
繰り返しになるが、郷原氏は政治資金規正法違反における罰則の適用は、他の手段では法律の理念が達成できないような場合に限られるべきだ、ということである。
優先されるべきは、法律の内容についての指導・啓蒙、適法性についてのチェック、収支報告書の記載に誤りがあった場合の自主的な訂正、それに対するマスコミや国民の批判などの手段である、ということである。
つまり、今回の容疑とされている政治資金収支報告書に虚偽記載があるならば、それを訂正することが先で、みだりに罰則を適用すべきではない、ということになる。
郷原氏は、検察OBの堀田力氏が、政治資金規正法の罰則適用について、「検察は説明責任を負わない」という見解を表明していることに対して、検察が組織として同じ見解なのか否か、国民に対して説明すべきだ、とする。
堀田氏のような見解で政治資金規正法の罰則適用に臨むということであれば、それは憲法が定める三権分立の枠組みにも影響を与えるような強大な権限を検察に与えるものであり、国会の場で検事総長が説明を行うことが必要であるということである。
検察が組織として堀田氏とは異なり、郷原氏と同様に、他の手段では法律の目的が達せられない場合にのみ罰則を適用すると考えているならば、本件について、そのような場合に該当することについて説明すべきである、ということになる。
郷原氏も、捜査の秘密や公判立証などの関係で、個別具体的jな事件の内容についての説明には制約があるとしている。
しかし、罰則適用の前提となる政治資金規正法の解釈問題については、制約はなく、また政治的に極めて大きな影響を与える事件であるから、事実関係についても積極的に説明を行う必要があるのではないか、としている。
郷原氏は、検察が説明すべき事項を次の3つに整理している。
1.違反の成否に関わる問題
2.悪質性の評価に関わる問題
3.捜査の手続き・手法に関する問題
違反の成否に関してのポイントは、先ず「虚偽記載」と判断した法解釈である。
郷原氏によれば、政治資金規正法においては、寄附の資金を誰が出したかを報告書に記載する義務はない。
たとえ、西松建設に献金額を明示した請求を送っていたとしても、それだけでは違反ではない。
問題は、2つの政治団体が、全く実体のないダミー団体で、それを小沢氏側が認識していたかどうかである。
「実体がない」とはどのような状態と考えるべきか?
会員名簿の管理や献金などの事務手続きを、実際には西松建設の社員が行っていたことが、実体のないことの根拠だと報道されている。
しかし、郷原氏は、それくらいのことは、数多く(郷原氏は、数千、数万と表現している)の政治団体が行っていることで、明確な判断基準を示すことが必要だとする。
そして、問題は、大久保容疑者の認識の問題である。
違反の成否のポイントとなるが、認識の問題を客観的に立証することは、一般論としてはかなり難解なことなのではなかろうか?
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