ロッキード事件④…背後にある闇
「ロッキード事件」が発覚したのは、昭和51(1976)年2月5日であった(09年2月26日の項)。もう33年も前のことになる。
昭和50(1975)年12月27日から始まっていた第77回通常国会は、「ロッキード事件」の真相究明を巡って与野党が激しく対立し、後に「ロッキード国会」と呼ばれるようになる。
平野貞夫『ロッキード事件「葬られた真実」』講談社(0607)は、当時衆議院議長・前尾繁三郎の秘書だった著者が、自身のメモをもとに、著者の思うところの「真実」を明らかにした著書である。
奥付の著者略歴を見てみよう。
1935年、高知県に生まれる。1960年、法政大学大学院社会科学研究科政治学専攻修士課程修了。この年、衆議院事務局に就職。1965年、園田直衆議院副議長秘書、1973年、前尾繁三郎衆議院議長秘書。委員部総務課長、委員部部長などを経て、1992年退官し、同年の参議院議員選挙に出馬。自由民主党、公明党の推薦を受け高知県選挙区で当選し、その後、自由民主党に入党。1993年に新生党、1994年に新進党、1998年に自由党の結党に参加。2003年民主党に合流、参議院財政金融委員長に就任。2004年、政界を引退。
議会政治の理論と国会法規の運用に精通する唯一の政治家。著書には『小沢一郎との二十年』『自由党の挑戦』(以上、プレジデント社)、『亡国』展望社、ベストセラーになった『日本を呪縛した八人の政治家』『昭和天皇の「極秘指令』『公明党・創価学会の真実』『公明党・創価学会と日本』(以上、講談社)などがある。
上記の履歴を見れば分かるように、国会のオモテとウラを最も良く知っている人、ということになるだろう。
私などは、報道によってしか窺い知れない世界である。
「ロッキード国会」では、11年ぶりという証人喚問が行われ、マスコミの報道も過熱した。
国会の会期終了後の7月27日、田中角栄前首相が、東京地検に逮捕された。
前首相の逮捕という事態は、日本政治史上空前のものであった。
田中角栄逮捕で、自民党の暗部に検察のメスが入ったのだろうか?
平野氏は、次のように言う。
「あの国会で、誰もロッキード事件の真相を解明しようなんて考えていなかった」
どういうことか?
首相の三木武夫は、政敵の田中角栄を追い落とすチャンスだとスタンドプレーに終始して、真相究明を蔑ろにした。
田中角栄自身を含む自民党主流派は、右往左往するばかりだった。
野党は、間近に迫る総選挙を有利にすることしか考えていなかった。
検察は、「誰でもいいから大物政治家のクビをあげる」ことに突っ走っていた。
平野氏は、誰もがロッキード事件の背後に隠された「闇」から目を背けつづけていた、という。
その本筋とは何か?
日本は、昭和20(1945)年8月15日の敗戦から、昭和27(1952)年のサンフランシスコ講和条約発効までの約7年間、外国によって占領されるという史上初めての体験をした。
その間も、それ以降も、日本の政治は、多かれ少なかれ、外国の(特にその諜報機関の)影響を受けてきた、というのが、平野氏の時代認識である。
自由民主党が結成された自由党と日本民主党の保守合同では、結党資金にCIAの資金が流れた。
社会党への国会対策費や総評への懐柔資金としてもCIA資金が流れ込んでいた。
中国ロビーを通じて中国共産党の資金も入っていたし、日本共産党はソ連からも資金提供を受けていた。
ロッキード事件で、児玉誉士夫の名前が真っ先に登場したのは、そういう実態の中でのことであった。
児玉は、CIAのエージェントだった、と平野氏は言う。
児玉が、フィクサーと呼ばれ、日本の政界に暗然たる影響力を持っていた事実こそ、日本の政界の「闇」であった。
平野氏のいうロッキード事件の解明とは、外国の諜報機関によって政界が汚染されてきたという事実、それを明らかにするということである。
それは、日本の政治が「真の独立」を果たすチャンスだった。
だから、ロッキード事件における最も重要な案件は、「児玉誉士夫ルート」の解明のはすだった。
ロッキード社から、同社ののエージェントでもあった児玉にカネが流れ、防衛庁が国産化も視野に入れていた次期対潜哨戒機として、ロッキード社のP3Cオライオンが導入され、児玉には21億円もの賄賂を得た。
それがロッキード事件の本筋だったはずである。
しかし、実際には、脇道の「全日空ルート」ばかりが取り上げられ、田中角栄という大物の逮捕で幕引きが行われ、日本の政界が抱えていた「闇」は、解明されないまま、さらなる漆黒の闇の中に閉ざされた。
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