ロッキード事件⑰…アメリカの謀略?
産経新聞特集部編『検察の疲労』角川書店(0006)によれば、政官財界の構造汚職を暴き出したロッキード事件は、昭和43(1968)年の日本通運事件以降、十年にわたって「休眠状態」にあった特捜部にとって、権威と権限を世界にアピールするに十分なものであった。
しかし、このロッキード事件をめぐって、いくつかの不可解な謎が残されている。
第一の謎は、アメリカの謀略説とも絡む問題である。
ロッキード事件がわが国に報じられたのは、既に触れたように(09年2月26日の項)、アメリカの上院外交委員会の多国籍企業小委員会(チャーチ委員会)での公聴会の様子を伝えた外電だった。
ロッキード社が日本の自衛隊にP3C対潜哨戒機を、そして全日空にトライスター機を売り込むために、30億円にものぼる巨額の工作資金を右翼の児玉誉士夫や丸紅を通じて日本の政府高官に流した。
上掲書によれば、ロッキード事件捜査に関係した検察幹部が次のように語っている。
「ロッキード事件発覚の発端は、チャーチ委員会だが、その過程で不自然なことがあった」
何が不自然だったのか?
昭和50年夏、チャーチ委員会の事務所に小包が届けられた。
中身はロッキード社の極秘資料で、同委員会が公表した資料のほとんどは、この小包に入っていたものばかりだった。
その小包は、誤って配達されてきたと説明されている。
しかし、ロッキード社にとって社外秘の資料が、よりによって、多国籍企業を糾弾していた同委員会に「誤って」配達された、というのは余りにも出来すぎた話である。
ロッキード疑惑を最初にキャッチしたのはSEC(証券取引委員会)だった。
誤配は、単なるミスなのか?
それともだれか仕掛人がいて、誤配を装って、ロッキード社の機密文書をチャーチたのか?
あるいは、何者かが、SECの極秘文書をチャーチ委員会に届くように細工をしたのか?
上記の検察幹部は、米国発で、日本の捜査機関を動かし、徹底解明させようとした可能性が捨てきれない、という。
そして、その狙いは、田中角栄元総理だというのである。
田中元総理は、金脈問題で政権の座を降りていたが、巻き返しの機会を窺っていた時期である。
首相在任中に、日中国交正常化を行うと共に、日本独自の石油ルートの開拓を始めるなど、米国と対峙する方針を次々と打ち出してきた。
つまり、アメリカからすれば「宿敵」という位置付けになる。
当時通産相だった中曽根康弘は、田中角栄の「国産原油、日の丸原油を採る、という発言がメジャーを刺激した」と語っている。
謀略だったのか、単なるミスだったのかは別として、チャーチ委員会が発端で、疑惑は日本に波及した。
そして、東京地検特捜部の捜査はアメリカ主導で行われ、裁判では、東京地裁、東京高裁、最高裁ともに、いずれも検察側の主張を全面的に採用した。
田中角栄は、最高裁への上告審中に死去し、公訴棄却になったが、「総理の犯罪」による戦後最大の疑獄という評価が定着し、捜査の意図は達成された。
果たして、アメリカの謀略は存在したのか?
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