日本を徘徊する「仲間主義」という妖怪
1848年、カール・マルクスとフリードリッヒ・エンゲルスは、ある著書の冒頭に次のように記した。
Ein Gespenst geht um in Europa – das Gespenst des Kommunismus.
http://okwave.jp/qa387449.html
日本語版では次のように訳されている。
一匹の妖怪がヨーロッパを徘徊している、共産主義という妖怪が。
ちなみに著書のタイトルは、『Manifest der Kommunistischen Partei』。
つまり『共産党宣言』である。
史上もっとも有名なマニフェストと言っていいだろう。
この言葉に倣えば、現在の日本には、「『仲間主義』という妖怪が徘徊している」のではないだろうか。
まずは、「文藝春秋09年4月号」で東谷暁氏がいみじくも指摘している『竹中平蔵、西川善文、宮内義彦3氏の「お仲間」資本主義』。
この論文で、東谷氏は、次のように言っている。
私たちがもうそろそろ気づかなくてはならないのは、今回の「かんぽの宿」事件というのは単発の不祥事などではなく、郵政民営化という小泉構造改革の「本丸」がもたらした「合法」と「違法」の境界破壊のおぞましい結果だということである。
東谷氏は、西川日本郵政社長(元三井住友銀行頭取)と竹中金融相との関係について、佐々木実『小泉改革とは何だったのか-竹中平蔵の罪と罰-』(「現代08年12月号、09年1月号)を引用しつつ、次の事実を明らかにしている。
2002年12月11日に、ゴールドマン・サックスのヘンリー・ポールソン氏(後に米財務長官)、竹中金融相、西川頭取の三者が密会した(会談の内容は非公開)。
この会談以前には、三井住友とUFJは経営内容にさほどの違いはなかったが、UFJは東京三菱銀行に吸収され、三井住友は残った。
上記の密会で、ゴールドマン・サックスによる三井住友への増資が決まって、窮地にあった西川頭取が、便宜を図った竹中金融相と急速に緊密になった。
そして、ナベツネこと渡邉恒雄・読売新聞主筆が、竹中氏から直接聞いた話。
日本のメガバンクを2つにしたい。残すのは、東京三菱と三井住友だ。
つまり、「みずほとUFJ」はいらない、ということで、なぜ三井住友を残すのかというと、西川頭取が外資導入の道を開いたからだ、というのがナベツネ氏の推測である。
東谷氏は、「かんぽの宿」売却に対する鳩山総務相の「待った」に対する竹中氏の反論(2009年1月21日 (水):「かんぽの宿」一括売却に関する竹中平蔵氏の宮内氏擁護論)について、次のように批判している。
「かんぽの宿」譲渡の真意を、伊藤和博・日本郵政資産ソリューション部部長が、M&Aであったと明かしていることから、日本郵政が継続的な事業として認識していたわけで、不良債権などではない。
「機会費用」という竹中氏の議論は、「簿価」が意図的に安くされている疑いが濃厚である以上、成り立ちようがない。
竹中氏にとって、郵貯を使ってアメリカのご機嫌をうかがい簡保市場を譲渡してしまえば、日本郵政はただの「抜け殻」であり、「かんぽの宿」などは叩き売ることしか念頭になかったのではないか。
東谷氏は、結論的に以下のように書いている。
竹中氏がいかに宮内氏が郵政民営化と無関係であるかを強調し、西川氏の「バルク売り」の正当性を声高に述べても、国民の多くは大きな欺瞞があることに気がついている。
「『無関係』や『正当性』を強調すればするほど、竹中-西川-宮内の『お仲間資本主義』は、国民の前に明瞭にあぶりだされてくるのだ」。
さて、日本を徘徊している「仲間主義」の妖怪は他にもいる。
小沢民主党代表や二階経済産業相など、旧経世会とゼネコンとの繋がりである。
西松建設からの献金をめぐって、改めて、このコネクションが強調されている。
この実相については、まだまだ分からない部分が多い。
とかく公共事業は談合など不透明な部分が多かったので、利権絡みの話になりがちである。
実際に、小沢氏の影響力がどの程度だったのか?
一般論としては、野党よりも与党の方が影響力を持つだろう。
特捜部が、西松建設献金問題で、異例ともいうべき小沢民主党代表秘書の逮捕に踏み切ったのは、「献金の性格」を重視したからだという(産経新聞3月13日「献金の底流・下」)。
どういうことか?
特捜部は、西松建設の献金は、実質的に「ワイロ」ではないか、と見ているということである。
つまり、「ダムや空港工事の受注を期待した」とか「工事が取れたのは献金のおかげ」ということである。
しかし、小沢氏の職務権限からして、収賄罪に問うことが難しい。
上記記事によれば、検察関係者は、「違法な献金を受け続けた構図の実態は収賄と良く似ている。2100万円を、仮にわいろに見立てたら少ない額とはいえない」と語る、としている。
献金のワイロ性に確証があるのならば、上記の見解も理解できなくはない。
しかし、収賄の要件が満たされていないとすれば、「構図が良く似ている」とか「仮に見立てたら」というような主観的な判断に基づいて捜査を行うべきではないだろう。
この部分でも、今回の捜査が多分に恣意的ではないか、と思われる。
法の適用が恣意的に行われるようでは、社会的公正が保たれず、検察の存在意義が問われることになるだろう。
ここで想起するもう1つの「仲間主義」は、エスタブリッシュメントのサークルである。
東大法学部出身者を中心とする高級(キャリア)官僚は、日本株式会社とも称される官民一体の日本社会においてイニシアティブを握ってきた存在である。
検察庁も、その一環を構成している。
エスタブリッシュメントのサークルを侵そうとする者は排除される。
かつての田中角栄のように。
西松建設献金問題の捜査とそれに関する情報の流通に関して、そういう仲間主義の妖怪がちらついているように見えるのは、気のせいだろうか。
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